不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました

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それは、(さかのぼ)ること三か月前――


ソフィアは市井で生まれ育ち、十四歳の春までそこで暮らしていた。

しかしソフィアの人生はある日を境に百八十度違うものになる。

それは、母リゼルテが病で息を引き取って二週間後のことだった。ソフィアのもとに、ひとりの男が現れたのである。

ランドール・ヴォルティオと名乗るその男は、二十歳前後の背の高い男だった。

赤毛に、はしばみ色の瞳。見るからに高そうな服を着ていて、ソフィアの暮らす狭いフラットの一室には不似合いな気品のある男だった。

小さなテーブルしかない居間に通すと、ランドールはちらりと天井を見上げた。背の高い男には低すぎる天井だから、頭がぶつからないか心配だったのかもしれない。

母が死んだ悲しみを消化できないまま、ぼんやりとソフィアは少し欠けたコップに水を注いで差し出した。

お茶の葉は高くて買えないから、出せるものといえば白湯(さゆ )しかない。

わずかに眉を寄せたランドールは欠けたコップが気に入らないのかもしれないけれど、それが一番状態のいいコップだった。

母の死のショックで朝も夜も泣き暮らしていたソフィアは、泣きすぎたせいか頭がぼーっとしていて、今の状況がはっきりと理解できていなかった。

髪の毛もいつ洗ったのか覚えておらず、母が好きだと言ってくれた金髪はすっかりごわごわしている。

ただなんとなく、この金持ちそうな人は母の知り合いなのかなと、まとまらない思考でソフィアは考えた。

ソフィアの母は、ソフィアを産む前は城で働いていたと言っていた。そのときに知り合った人かもしれないが、それにしては母とは年が離れすぎている。