生徒指導室の戸締りをして、教室に戻った。

気づかない間に時間は進んでいて、もうお昼の時間だった。

教室に入ると、クラスの半分程度が僕を少しにらみつけるように見てきた。

もう半分は僕から視線を一気にそらして、気づかないふりをしているようだ。

クラスの人も僕が殺人犯だと思っているのだろうか。

視線を感じ、僕の存在が浮いてしまう。

そんな居心地の悪いところにはいたくなかったので、僕はお弁当を持って屋上に向かった。



屋上の扉の前に着くと、南京錠が外れ、植木鉢の下の鍵もないことに気づいた。

引き返すか悩んだが、どのみち行く当てもないので諦めて開けることにした。

重い扉をゆっくりと開けると、そこには一人の生徒がいた。

扉が開いたことに気づくと、すぐに慌てて物陰に隠れていた。

おそらくいつも屋上を使っている人だろう。

簡単に見分けはついた。

鍵の位置を知っていることと、決定的なことは椅子に座っていたことが確認できたからだ。

扉が開き、急いで隠れた生徒に僕は声をかけた。

「すみません。お邪魔する気はなかったんです。

 僕はお弁当を食べに来ただけなので、誰にもあなたがいたことは言いませんよ」

すると、一人の女の子が陰から出てきた。

「あれ修くんじゃん!」

屋上を使っていた生徒の正体は美月さんだった。

「なんだ美月さんか…」

まったく知らない人ではなかったため、少し安心して僕は自分の椅子を取りに向かった。

気づいたときには美月さんは座りなおして

「さあさあ、食べよ食べよ!」

と明るく話しかけてきた。

「え、うん」

僕は戸惑いながら、とりあえず返事をした。

椅子に座り、お弁当を食べているときも、美月さんは僕に話しかけてきた。

「ねえ!修くん、なんかしたの?怒られちゃったのかな~?」

「怒られるようなことなんてしてないよ。少なくともした記憶はないよ」

すごくフレンドリーに話しかけてくれる。

僕にとってはありがたいし、話しやすくてうれしい。

そういえば美月さんは屋上をいつから使っているんだろう。

「美月さんはいつから屋上を使っているの?」

「え、いつからも何もないよ、修くんが教えてくれたじゃん!

 鍵の位置と使い終わった椅子の隠す場所!」

「僕が?美月さんに?」

そう聞き返すと、目の前でニコニコしながら首を縦に振る女子生徒の姿。

僕が考え込んでいると、

「そもそもなんだけど。その美月さんってなに!なんかむず痒いんだけど」

美月さんは少し不思議そうな表情をしながら話してきた。

「初対面だし、さん付けした方がいいかなって思ったんだけど。

 名字の方がよかった?」

「…本気で言ってんの?」

少し怒りのような感情がこもっている声の意味が、僕にはわからなかった。

「悪気はなかったんだ」

「私が何に怒っているのか、わかってんの」

「……」

僕は黙っていることしかできなかった。

理由がわからないことを謝ることはできない。

正直に原因を聞こう。

「わからない…美月さんはなんで怒っているんですか」

怒っていた表情とは一転して、少し悲しそうな顔をしながら話し始めた。

「私のこと忘れちゃったの…

 1年の時からずっと一緒にいたのに…」