まずは何か知ってそうな和樹に話を聞きに行こう。

少し周りからの目線を感じる。

視線が集中する中、僕は和樹の後ろに立って声をかけた。

「あのさ……」

うまく言葉が繋げられない。

声が出ずにいると、

「なんだよ。用があるならさっさと話せや」

和樹からの言葉が飛んできた。

僕は緊張もあり、20秒ほどかけて丁寧に言葉を選び問いかけた。

「約束したって言ったけど、昨日僕は和樹君には会っていないと思うんだけど、

 本当に昨日だったの」

絞りだした弱々しい声の問いに対して、

「ああ、間違いなく昨日だ。俺はいつもと同じように頼んだだろ。

 あと口の利き方には気をつけろ。俺には敬語を使え」

口調に対して注意されたが、今はそんなことはどうでもよかった。

間違いなく昨日…

昨日は裁判があったから学校は間違いなく欠席しているはず。どうして。

「僕は学校を休んだはずなんだけど…」

考えていたことが口からこぼれてしまった。

「何言ってるんだ。無遅刻無欠席の優等生ちゃんが」

状況が整理できない。頭がぐちゃぐちゃになっていた。

僕は逃げるように教室から飛び出して、一人になれる場所を探した。

廊下を走り、階段を駆け上がった。屋上を目指して。

息を切らして到着した屋上には鍵がかかっていた。

だけれど鍵はすぐ近くにある。

屋上のドアの前にある植木鉢の下だ。

先生が職員室からの確認が面倒だからと、近くに寄ったときに確認できるよう

隠しているところをたびたび目にするため位置はわかっていた。

植木鉢を上げると、鍵が落ちていた。

僕は鍵を拾い、屋上のドアにかかっている南京錠に鍵を差し込んだ。

古くなり錆ついた南京錠を開けると、同時に1限開始を知らすチャイムが鳴り響いた。

「はじめての授業の欠席だ。優等生もおしまいかもな」

少し肩の荷が下りたのか、顔がほころぶ感覚があった。

開けた南京錠をポケットに入れ、屋上のドアを開けた。

屋上は僕が学校で一番好きな場所だ。

先生たちは使用を禁止していたが、こんなにも心地の良い場所を見つけてしまったら離れることはできない。

先生の見回りのチェック位置を確認して、死角となる場所に使われていない教室の椅子を持ってきておいていた。

隠した椅子を引っ張り出して腰掛けた。

何も考えなくてもよい、開放感。

この感じが僕はとても好きだ。

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少しの間ボーっとしてしまった。

殺人もいじめにあっていることも、全部全部変な夢であってほしい。

そう心から願った。

昨日から今日のことについて思考を巡らせた。

何となく状況の雰囲気をつかむためには、結局聞き込みが一番なのだろう。

まずはクラスの人に、殺人のことについて知っているのか聞いてみよう。

次にすることも決まった。

体調が悪かったことにして教室に戻ろう。

僕は椅子を隠すために立ち上がり、見回りに見つからない死角に運んだ。

その死角となる位置はかなり暗いため、近づいても目を凝らさなければ椅子の存在がばれることはない

そんな場所に、おかしな影が見えた。近づいてみると、もう一つ椅子が置いてあった。

「あれ、僕は1個しか椅子を運んできていないのに。ほかの人も屋上を使っているのか」

目を凝らさなければ見えないほど暗いからこそ、来た時には気づかなかったものがあってもおかしくはない。

若干動揺した。だが屋上を使う時に少し注意すれば、特に問題はないだろう。

何か落としたりしないように注意を払いつつ、僕は屋上を後にした。

南京錠をかけ、植木鉢の下に鍵を戻した。

しばらくは目立たないように、いつも以上に気を付けよう。

聞き込みに至っても注意を払って行おう。

僕は授業を受けるため、のそのそと教室に向かって歩いた。