二人で僕の部屋に戻り、学校に行く準備をした。

叶は僕の目の前でくるっと回ると、叶の服は一瞬で制服へと変化した。

アニメの魔法少女顔負けの速さだった。

あたりまえのように着替えているところを見ると、生きているときも頑張って学校に行っていたのだろう。

僕の考えには気づくこともなく、叶はいつも通り明るく少し誇らしげに自慢してきた。

「どうかな、修ちゃん!似合うかな?」

「似合ってるよ。すごくかわいいと思う」

顔を赤らめながら喜ぶ叶を横目に、僕も準備を進めた。



一通り準備を終え、部屋を出て玄関に向かう。

母がリビングから出てきて、僕に近づいてきた。

母は叶に聞こえないように小さな声で、「叶ちゃんを一人にしちゃだめだよ」と耳打ちしてきた。

叶のことを母はすごく心配してくれている。

そんなに心配することもないと思うけれども、一応気を付けることにしよう。

母には「わかった」とだけ伝えてから、叶と二人で家から出た。



昨日と同じように、のんびりと叶と話をしながら学校へと向かう。

今日は梅雨がまだ明けていないこともあり、雨の日だった。

いつもより静かな道路を、傘をさしながら歩く。



「生きているときに、修ちゃんとこんな風に歩きたかったな」

悲しそうな、寂しそうな。

叶はどのような気持ちなんだろう。

「僕と叶はどんな関係だったの?そもそも知り合いだったの?」

僕は叶のことをもっと知りたかった。

というよりも知っているのだろう。

記憶の欠けてしまっている部分に、叶との記憶もあるのだろう。

「私と修ちゃんの関係はね、ちょっと複雑なんだよね…」

少し言いにくいのか、時間がかかっていた。

重い口を開いて告げた内容は、僕にとっては衝撃的なものだったことを鮮明に覚えている。

「私の最初で最後の恋人が修ちゃんだったの」

開いた口がふさがらないとは、このことなのだろう。



「僕に恋人がいたの?それも叶が?」

今まで気にしなかったけれども、今の話を聞くと叶のことを少し意識してしまう。

こんなに良い人がいたのに、僕はなんで覚えていないんだろう。



「あれ、でもそんなに複雑ではないんじゃない?」

恋人だということだけでは、別に複雑な関係とは言えない気がする。

「修ちゃんの恋人だったのは2週間だけなの。私が告白して付き合ったのに私が振るから。ほら、ちょっと複雑でしょ!」

悲しそうに笑う姿を見て、僕はまた君がわからなくなった。



「その言い方だと、僕はまだ振られてないことにならない?」

言い間違えただけだろうか。

知らない間にいた恋人に急に振られるのか。

「振るのは私の本当の30秒が終わるときに…絶対に伝えるの!本当の君に。私を嫌いになってほしいから…」

叶の目からは涙が落ち、一番つらそうな顔を見せた。

叶の声は、強くなった雨の音で遮られて聞こえなかった。