不思議な夢を見た気がする。

少し前に実際にあったことのような、なかったことのような。

夢の中では、女の子の顔が見えた気がするけど思い出すことはできない。

根拠はないけれども、実際に会ったことのように感じる。

だとしたら、僕はその記憶がない。

記憶が少しの時間ないのかもしれない。

美月のことも知らなかったし、いじめのことも知らなかった。

覚えていないことがある以上、記憶が一定期間なくなっていたとしてもおかしくはない。

「またなにか考え事?変な夢でも見たの?」

起きてすぐに色々と考えはじめてしまっていたため、叶に挨拶もしていなかった。

「おはよう、叶。僕が2年生になってすぐの頃の夢を見た気がするんだ」

叶は少し驚いた表情をしてから「何か思い出したの?」と聞いてきた。

「いや正直夢だから、なんとも言えないかな…」

なんで記憶がないかもよくわからない。

思い出せないことは不思議ではあるけれども、どうしようもないから僕自身もうあきらめてしまっている。

「きっと思い出せるし、切り替えよう!」

叶が優しく励ましてくれた。

あんまり心配かけるわけにもいかないので、叶が言っているようにとりあえず切り替えよう。

叶が幽霊としている間は、僕のことよりも叶のことを優先してあげよう。

「ありがとう。じゃあ切り替えて学校に行く準備でもしようか」

僕は叶に声をかけ、二人で食事のためにリビングへ向かった。



リビングに着くと僕の親は「おはよう」といつも通り声をかけてくれた。

僕と叶も挨拶を返して、椅子に座った。

叶は椅子に座るとき、昨日のことを思い出したのか、少しニコニコとしながら腰掛けた。

「今日も叶さんはいるの?」

母の問いに対して、いることを伝えた。

信じてくれていることを再認識することができて、僕もうれしかった。

昨晩と同じように、電話を繋いで叶と会話をしながら食事をした。



食事を終え、学校の準備のために僕と叶は席を立った。

「叶ちゃんも学校に行くの?」

「一緒に行くよ。独りだとつまらないだろうからね」

そう母に伝えると、「そうしてあげなさい」と一言。

その一言は今までの食事の雰囲気とは違って、少し重みのある言葉だった。