校門を通ると、桜の木が左右に大きく広がっていた。

昇降口から二年生の教室に向かう。

クラス替えがないことから、進級したという感じはあまりないが、教室が変わると雰囲気は少し変わるのだろう。

今日から一年間通うことになる、2-3の教室の前には一人の女の子が立っていた。

身長が少し低い女の子だった。

1年生かな。誰だろうか。

中の様子を見ているけれども、何か用があるのだろうか。

「どうしましたか?誰か探してますか?」

困ったような表情をしながら、目の前の子は話し出した。

「いえ、そうではないんですけど…私の席がなくて…」

「転校生ってことであってる?」

この学校にはクラス替えはないものの、転校生は時々いるらしい。

「そうなんです…」と少女は答えた。

先生たちが忘れてしまったのだろうか。

僕が何か提案できないかと考えていた時、少女の目から涙が落ちた。

「泣かないで。大丈夫だから。そうだ!僕の席を使ってていいよ。その間に机と椅子を用意してもらうから」

慌ててしまったため、良い提案はできなかった。

それでも少女は嬉しそうだった。

「ありがとう…君は優しいね」

弱々しい声で少女は感謝を僕に伝えた。

「あれ、一番後ろで誰も座ってない席があるよね。あそこ使ってていいから」

僕が指を指しながら伝えると、コクりと頷いて教室に入っていった。

知らない土地に来て、知らない人に囲まれるんだから緊張とか不安も大きいのだろう。



僕の席にたどり着くまでに、多くの人からの視線を集めてしまい、足が動かなくなってしまっていた。

僕は急いでその子のもとに向かい、手を少し強引に引っ張って席まで連れていった。

席に座ると、少し安心したように一息ついていた。

僕はリュックをロッカーの上に置こうとしたとき、少女は僕の方を向いて

「私がリュック持ってるよ。貸してくれれば」といった。

何から何までというのも嫌なのかな。

そう思ったので、僕はリュックを少女に渡した。

少女は僕のリュックを嬉しそうに抱きかかえていた。

僕は少女の後ろでロッカーにもたれかかって、先生が来るのを待った。



しばらくすると、少女は振り返り問いかけてきた。

「そういえば君の名前聞いてもいいかな?」

「僕の名前は修太朗っていうんだ。これからよろしく」

「こちらこそよろしく!私はね……」



「修ちゃん起きて!もう朝ですよ~」

明るく元気な声で、僕は目を覚ました。