僕の通訳を通さなくても声が聞こえることで、話は弾んでいた。

いわゆる女子トークというやつかな。

話を遮りたくはないけど、夕食もある。

そろそろ僕が来ないことで、母が呼びに来るだろう。

「叶は少し美月と話してる?僕はご飯食べてくるんだけど」

「話していたいけど、修ちゃんのご飯の様子は見なきゃだから!美月ちゃんごめんね…」

「全然いいよ!むしろ時間とっちゃってごめんね。また明日お話ししよ」

名残惜しそうに話していた美月の声が電話口から消えた。

僕の携帯からはツーツーと音が響く。

悲しそうな顔をしていた叶に、僕は声をかけた。

「また明日も、って美月も言ってたよ。元気出して」

表情がパッと明るくなり元気な声が聞こえた。

「早く行こう。父さんも母さんも待ってるよ」

僕は楽しみでいっぱいだったこともあり、少し弾んだ声で叶に呼びかけた。

電話があれば話せるなら、不確かな幽霊という存在ではなく、君のことをちゃんと両親に紹介できる。



リビングに向かう途中、父の発言を思い出し、少し引っかかった。

叶について説明するとき、一番最初に「叶っていう幽霊」と名前を伝えたはずだけれど、部屋を出る直前もう一度名前を聞かれた。

聞こえてなかっただけなのだろうか。



僕と叶はリビングの扉の手前まで来た。

「あっ!」

扉に手をかけたとき、僕は叶へのプレゼントのことを思い出して少し大きな声が出てしまった。

叶のことを紹介できることに意識がいってしまっていたこともあり、プレゼントのことが頭から離れてしまっていた。

叶は「大丈夫?」と声をかけてくれた。

美月と話せるようになったことで喜んでいたけど、もっともっと喜ばせてあげたい。

「何でもないから」と一言添えて、部屋の扉を開けた。

食卓には僕と両親が使う、古びた椅子が3脚と新しい椅子が1脚。

叶の方を向くと、目線は間違いなく椅子の方を向いていた。

「今日さ、椅子を買いに行ったよね。その時選んでたのは、僕のじゃなくて君のものだったんだ。叶に喜んで欲しくて、少し驚かせたくて内緒にしてたんだけど」

僕がそう伝えると、叶は一番の笑顔で泣いていた。

「ありがと!」その一言はいつもよりも声が震えていて、いつもよりも君のことがわかるものだった。

「喜んでくれたの?叶さんは」

母がそう言うと、叶は目線を強くこちらに向けてきた。

両親に伝えたことも黙っていたため、驚いているのだろう。

「叶のことを話したんだ。母さん、叶はすごく喜んでいるよ」

叶はいろんな表情を見せてくれていたけど、二つの出来事があって表情がコロコロと変化するところは、少し面白くて笑ってしまった。



この出来事は叶の思い出の1つになっただろうか?

君がここに居れる"30秒"の間に、あとどれくらい思い出を渡せるだろうか。