僕はもう一度叶の名前を呼んだ。

やはり返事はなかった。

静まり返る部屋の中、僕は立ち尽くした。

「まだまだ時間はあるって言ってたじゃないか。君の言っていた30秒は思っていたより短かったのか?」

寿命なのか。

正直僕が見ていた夢だったと言われたらそれまでだ。

「君はほんとにいたんだよな」

僕は叶のいた証拠を求めて、美月に電話をすることにした。

携帯の呼び出し音が部屋に響く。

「はーい美月です。どうしたの修くん?」

電話に出た美月は少し眠そうだった。

「美月は叶のこと覚えているよな」

美月を頼るしかなかった。

「覚えてるよ。優しくてかわいい幽霊さんでしょ。それがどうしたの?」

「いないんだ…僕の部屋にいるように伝えたらいなくなってしまったんだ」

「そっか寿命?なのかな。30秒って言ってたもんね。私も話してみたかったな」

「僕ももっと話したかった」



「椅子は渡せたの?」

「渡せなかった」

「そっか」

僕たちの会話は簡素なものだった。

「なんで叶はあんなに勝手なんだ。急に現れて、急に消えて…」

僕の目からは涙がこぼれた。



「どうかしたの?」

「どうかしたのって叶が急にいなくなって…叶!」

声のする方を見ると、ベッドの上で目をこすりながら、座っている幽霊がいた。

「いやぁ修ちゃんを脅かそうと思って、ベッドで布団をかぶってたら寝ちゃった」

僕は呆れて怒る気にならなかった。

「叶さんいたの?」

美月は心配そうに問いかけてきた。

「ごめん、このポンコツ幽霊、脅かそうと思ってたら寝ちゃってただけみたい」

「誰がポンコツだ!」

叶はちょっと怒ったように叫んでいた。

「ねぇ修くん!修くんの部屋の中、誰かいる?」

美月は急に大きな声で問いかけてきた。

「僕と叶しかいないけど」

「じゃあ今"誰がポンコツだ"って叫んでたのって…」

「そりゃ叶だけど…叶の声が聞こえたのか!!」

気のせいじゃないかと言いたいところだけど、叶の言ったことをピタリと言い当てている。

電話を通すと聞こえるのか?

僕は携帯を机の上においた。

叶はそっと携帯に近づいて声を送る。

「私の声聞こえてるの?美月ちゃん」

「聞こえるよ!叶さん」

「わぁこれでお話しできるね!」

叶と美月はお互いに話せて嬉しそうだった。

「叶さんの声、そんな感じなんだね。なんか想像より可愛くて悔しい」

「美月ちゃんの方が可愛い声してるよ!」

「なんだか照れちゃうな」

叶はぴょんぴょんと跳ねながら電話をしていた。

僕は無邪気にはしゃぐ叶の姿に心を惹かれた。