人の気配がしない駅のホームは少し暗くなっていた。

人目を気にする必要がないため、叶ともある程度自由に話すことができる。

椅子を買って帰るだけとはいえ、サプライズを成功させるためには少し気を使わないといけない。

僕が美月の方を見ると、察してくれたように頷いていた。

改札に向かって階段をのぼっていた時、ちょっとした違和感を覚えた。

階段をのぼっていても、疲れを感じなかった。

それほど気にすることでもないけど、なんか変な気分だった。

「ねぇ修ちゃん家具屋さんって駅から近いの?」

「駅の目の前に少し大きめの建物があって、その中だよ」

叶は来たことないのかな。

そういえばこの子はどこに住んでいたんだろう。



階段をのぼると、改札が目の前にあった。

改札に近づくと、女性の駅員さんが手招きをしてくれた。

「君たちでしょ。連絡で大体聞いたよ!私も力になるからいつでも頼ってね」

「ありがとうございます」

僕はお礼を伝えてから、叶の切符を渡した。

駅員さんはスムーズに切符の処理を行いながら

「暗くなってきたから、気を付けてね」

と言ってくれた。

僕と美月は自動改札機から、叶は駅員さんの横をすっと通り過ぎた。

普通に生活していたら、ただの女の子なのに幽霊なんだよな。

僕はこの感覚がずっとどこか引っかかっていた。



駅から出ると目の前に家具屋があった。

なんだか前より大きい気がする。

工事か何かあったのかな。

「あれだよね!わぁ、おっきいな~!」

隣にははしゃぐ幽霊がいたが、反対を向くと不思議そうに首をかしげる女の子がいた。

不思議そうに建物を見ていた美月がこちらを向いて、顔を近づけてきた。

「ねぇ修くん。あの建物あんなに大きかったっけ」

耳打ちされた内容は、僕が思っていたことと同じことだった。

「僕も大きさに違和感はあるけど。いつまでも変わらないわけではないから、売り場を大きくしたんだろう…きっと」

渋々納得していた美月とは違い、目の前の建物に大はしゃぎな叶。

「二人とも早く行こうよ!遅いと叶さん一人で先に行っちゃうよ」

叶は一人でお店の方に向かう。

その隙を見て、美月に相談をすることにした。

「叶が少し離れたから相談なんだけど、女の子ってどんなのだと喜ぶかな」

「そうだね、可愛いのだとやっぱりうれしいかもって言いたいけど…どんなのだと嬉しいと思う?」

「やっぱり自分のほしいものだと嬉しいんじゃないかな。これから使う訳だし」

僕がそう答えると、美月は大きなため息をついた。

「修くんは賢いのに、女の子関係の話ってほんとに疎いよね」

「じゃあ美月だったら、どんなのがいいんだよ」

ちょっと馬鹿にされたこともあり、少し口調が強くなってしまった。

「あのね、私はともかく叶さんは修くんが好きで一緒に居るんでしょ。好きな人が自分のために一生懸命選んでくれるからうれしいんだよ!」

そんなものなのだろうか。

「それが通用するのは、お話の中だけじゃないのか」

「私は自分のために選んでくれたものだとすごくうれしいよ。どんなに変なものでも!」

自分なりに考えてみるか。

「叶さん離れちゃってるんでしょ。早く追いかけよう!」

僕は美月と一緒に叶を追いかけた。