学校に着き、昇降口に向かう。

「制服可愛いね~」

「そうかな?普通だと思うけど」

この中学の制服は普通のブレザーである。

「セーラー服とかに憧れってないの?」

女子はセーラー服に憧れを持っているイメージがあるけど、

そういうわけでもないのだろうか。

「私にはセーラー服は似合わなかったんだ」

少しだけ残念そうに、笑いながら話す叶。

そんなことはないと思う。

似合わないと話す叶が、セーラー服で学校生活を送る姿を想像してみた。

「僕は似合うと思うけどな」

本心で言った言葉を聞いて、みるみるうちに頬を赤らめていく叶。

僕は僕で、なんだか照れてしまう。

いつものようにニコニコしてくれていれば、気にしなかったのだが、

恥ずかしがっている姿を見てしまうと、こちらも恥ずかしさを感じてしまう。



少し気まずさを感じて、しばらくお互いに何も話さない時間があった。



気づいたときには、周りに登校する生徒がいなくなっていた。

割と早めに家を出たから、時間には余裕があるはずだから気にしなくてもいいけれど。

それにしても少なすぎる気がする。

「ねぇ。そろそろ急いだほうがいいんじゃない?

もうすぐホームルールの時間だけど…」

心配そうに伝えてくるが、時間はまだまだあるはず。

ホームルームの開始は8時30分。

家を出た時間は7時30分頃だった。

学校までは歩いて15分もあれば着く。

叶は時間がわからないから不安がっているのかもしれない。

安心させようと思い、僕は校舎の時計の方に体を向け

「大丈夫だよ。今日はいつもより余裕を持って家を出たから」

叶にそう伝え、校舎についている時計に向かって指をさした。

「ほら、あそこの時計見えるか?まだ時間が…え?」

僕は時計を見て驚愕した。

時計は8時25分を指していた。

「ごめん叶!急ぐぞ」

僕は叶の手を掴もうとしたが、すり抜けてしまう。

「私ならちゃんとついていくから大丈夫だよ。優しくしてくれてありがと」

手を掴めないことで、僕は叶が幽霊であることを改めて認識する。

叶は少し悲しそうな顔をしていた。

僕は叶に触れることができないということを認識させてしまった。

今後はもっと慎重にしなければ…



そのまま二人で慌てて走り、チャイムが鳴る約10秒前に教室に着いた。

僕は自分の席に座り、後ろについてきた少女のために隣の空席の椅子を引いた。

今日もクラスメイトからの視線は集中している。

そのうえ誰も使わない椅子を引いたことで、怪しんだり不気味がる声が聞こえてきた。

ガラガラと大きな音を立てて、担任の藤田先生が教室に入ってくる。

「出席取るぞ。全員座って静かにしておいてくれ」

いつものように先生が順々に生徒の名前を呼び、出席確認を行う。

僕の名前も呼ばれ、適当に返事をした。

正直みんな出席確認の返事なんて適当だ。

教壇から見れば、欠席がいないことが一目でわかる。

それにこのクラスの出席率は異常である。

昨年の出席率は99.9%を超えるぐらい、誰も休まないようなクラスだ。

藤田先生も確認はだいたい適当にしていると思う。

「全員出席だ。今日の連絡は特になし。じゃあ授業がんばれよ」

先生ってこんな適当でいいのだろうか。

「面白い先生だね。懐かしいな~」

教室で叶と話すとまた悪目立ちをしてしまうので、筆談という形をとった。

“面白いっていうより適当なだけだよ。懐かしいって藤田先生のこと知っているのか?”

叶は僕の字に目を通した後、笑いながら答えた。

「私が行ってる学校にあんな人がいるから、懐かしいなって」

僕はその言葉に違和感があった。

叶は時々まだ生きているような話し方をしている気がする。

気のせいだろうか。



叶が不安そうに、僕の顔を覗き込んできた。

大丈夫だと伝えようとしたとき、僕は首元から後ろにグッと引っ張られた。

「おい!修太朗ちょっとこっち来い」

突然服を引っ張って、威圧的に話しかけてきたのは和樹だった。

和樹は僕を引きずってどこかに行こうとする。

叶は僕について来ようとしていた。

「修ちゃん!」

「こっちに来るな!」

叶には楽しい思い出を渡したい。

僕がいじめられる瞬間なんて嫌な思い出にしかならない。

「そこで待ってて」

叶は不安そうな顔をしながら教室に残り、僕は和樹に連れていかれた。