リビングに着くと、食事の準備を終えた両親が椅子に座って待っていた。

『おはよう』

「おはよう」

僕は両親に挨拶を返し、椅子に座る。

「じゃあ食べるか」

僕が座ってすぐに父が声をかける。

『いただきます』

家族で声を合わせたときの叶は、少し寂しそうだった。

やっぱり叶用の椅子があった方がいい気がする。

隣に座っている方が、

自分が幽霊であることを認識しなくてよくなるのではないか。

少し気が楽になるのではないか。

楽しく幸せな思いをさせてあげたい。

早速だけど、今日の放課後にでも買いに行こう。

そんなことを考えながら、食事をしていると父から

「調子はどうだ?」

と問いかけがあった。

「今日は大丈夫そうだよ」

「疑ったりと勝手だったが、俺は修太朗のことをしっかりと信じる」

「ありがとう。父さん」

「何かあったら言いなさい。どんなことでもできるだけ力になろう」

「心強いよ。ほんとにありがとう」

父に頼れるということもうれしい。

昨日までは、まだ家でも気を使っていた、

どこかに心を落ち着かせることのできる場所が欲しい。

屋上もあったが家も増えた。

屋上と家では、体調や自分の状況をしっかりと見極めよう。

「あ、早速なんだけど。お願いがあるんだけどいいかな」

「内容によるが、可能なら力になる」

椅子を買いたい。

叶へのプレゼントとして。

だけど秘密にしていた方がきっと喜ぶだろう。

「叶、少し来てほしい」

僕は叶に呼びかけ、一度リビングから出た。

両親から見たら、異様な光景だっただろう。

だけれど今は叶が最優先だ。

「叶ってさ、服って変えられるのか?」

現れたときから叶は、幽霊のイメージ通りの白いワンピースを着ていた。

「知っている服ならできるかも?」

「せっかくだし。制服にしてみないか?うちの中学は制服があるからさ」

「いいの?うれしいな~」

「僕の部屋に学校のパンフレットがあるから、それを見て着替えられるかやってみて」

「りょうかいです!」

「僕もご飯を食べてすぐに行くよ」

「はーい」

嬉しそうに叶は僕の部屋に向かう。

僕はリビングに戻った。

「ごめん父さん。さっきの話なんだけど…」

「それより大丈夫か。どこかに話しかけていたが…」

「後で説明するよ。お願いなんだけどいい?」

「とりあえず聞こうか」

「椅子を一脚買いたいんだ。その分のお金をもらえないかなって…」

「新しい椅子か。まあいいぞ。ご飯の後に用意しておく」

「ありがとう父さん」

「まあ後でちゃんと理由は話すんだぞ」

何も深く聞かずに頷いてくれて助かった。

帰るまでに、何かいい理由を考えておかないと。

「学校にお金を持っていくなら気を付けるんだぞ。落とさないようにな」

「気を付けるよ。ごちそうさまでした」

僕も学校の準備をしなければいけない。

叶の後を追うように、僕は自分の部屋に戻った。



部屋の前に着いたが、着替えは終わったのだろうか。

「着替えは終わったか?」

自分の部屋に入るにも確認がいるということは、新鮮で少し面白かった。

「終わったんだけど…」

「じゃあ入るよ」

ドアを開けると制服を着た叶の姿。

「すごいな叶は。きれいにできてるよ」

「うれしいんだけど…」

なぜか顔を赤らめる叶。

僕が褒めたからなのか。

「顔赤いけど、大丈夫か?」

「修ちゃん…制服の後ろってパンフレットに載ってる?」

「正面だけだと思うけど…ってまさか」

「うしろ…なくて…」

叶が作ったのは、前側だけの張りぼてのようなものだった。

「ごめん!とりあえずすぐにさっきのワンピースにしよう」

僕はすぐに手で目を隠して、叶に背を向けた。



「戻したよ~焦った焦った」

「今日はワンピースで行って、みんなの制服を見て来よう」

「そうだね!…ところで修ちゃん…見えた?…」

「見えてない見えてない!」

顔を真っ赤にしていた叶は安心したのか、

少しこわばっていた顔が優しい笑顔に変わった。

「じゃあ学校行くか」

大きく頷く叶は、学校を楽しみにしている小学一年生のように無邪気に見えた。

玄関に行く前に、僕は父に椅子代をもらいに行かないといけない。

「叶は先に玄関に行っていてほしい」

「はーい」と返事をして叶は玄関に向かっていった。

僕は急いで着替えて、父のもとに向かった。




父はお金を準備して待っていてくれた。

「これぐらいで足りるか?」

食事の後は急いで仕事に向かわないと間に合わないはずなのに、

僕のことを待ってくれている父がいた。

そんな父は3万円も用意してくれていた。

「ありがとう。十分すぎるよ」

お金を受け取り、部屋を出る前にもう一度父に感謝を伝えた。




僕は急いで叶のもとに向かう。

玄関に着くと準備を終えた叶が待っていた。

「おまたせ。行こうか」

「遅いよ~修ちゃん。早く学校行こ」

玄関で靴を履き、

「いってきます」と母に聞こえるように言って、家を出た。



ゆっくりと歩きながら、叶と学校に向かう。

誰かと学校に登校するのなんていつ以来だろうか。

昨日と同様に視線は感じるが、今日はあまり気にならなかった。

「なんかみんな修ちゃんのこと見てるね」

「僕はなんか人を殺したと思われているみたいなんだ」

「そうなんだ。なんだか不思議だね」

学校までは歩いて約15分で着く。

昨日の帰りはこの15分が1時間のように長く感じた。

しかし今日はあっという間に学校に着いた。

周りからは見えないが、叶と話して登校するのはとても楽しかった。