「…ゃん!起きて~修ちゃん!」

意識がぼんやりとしているとき、僕は誰かに起こされた。

宿題の後、そのまま机で寝てしまったようだ。

「変な夢を見たような気がする」

「どんな夢?」

「幽霊の女の子に付きまとわれる夢」

「それ現実だよ」

「…夢であってほしかった」

僕の頭の上を通って、目の前に来たものはニコニコしている幽霊。

不思議なことが起こりすぎて疲れているのだから、幽霊は夢が良かった。

「夢でよかったってひどくない?

こんなかわいい女の子だよ~」

「かわいいって自分で言うのってどうなの?」

口ではこう言うしかなかった。

幽霊とはいえ、面と向かって女性に可愛いというのは恥ずかしい。

「まあ修ちゃんが恥ずかしがり屋なのは知ってるから良いけどね~」

叶は、僕が恥ずかしがり屋だと言った。

昔の記憶はあるのか。あるいは僕にも叶が見えない時間があったのか。

見えない時間から僕の近くに居たとしたら、知っていてもおかしくはない。

でも話し方からは、記憶があるような自信を感じる。

とりあえず記憶の有無は気にしないでおこう。

記憶があろうがなかろうが、僕は別にどうでもよかった。

僕はこの幽霊の願いを叶えてあげたかった。

思い出を作る前に、僕は叶についてもっと知っておこう。

叶は僕のことを知っているみたいだけど、

僕は叶のことを少しも知らないのだから。

「叶の姿ってさ。死んだときの姿なのか?」

「そうだと思うよ!多分だけど、私が死ぬ前で一番まともな姿なんじゃないかな?」

「どういうことだ?」

「死んだときは外傷が残るとかあるはずなのに、傷とかないから」

確かにテレビとか映画で見るような、血まみれの幽霊ではない。

体が透けていなければ、もはや普通の女の子だ。

道端ですれ違ったとしても、気づかないほどに普通の子だ。

「なるほど。年齢とか聞いてもいいか?」

「年齢は修ちゃんと一緒の14歳だよ!」

「学校とかは行ってたのか?」

「やめちゃったんだ…楽しくなくてね…」

学校の話をしたとき、叶は昨日見せたような悲しそうな顔になった。

学校で嫌な思いをしたのだろうか。

だったら学校での嫌な思い出を忘れるぐらい、楽しい思い出を作ってあげよう。

このまま寿命を迎えたら、学校は心残りになってしまうと感じた。

「そうなのか。でも今度は楽しんでみようよ」

「楽しめるかな?あと行っても私がいる場所なんてないかもね」

学校に行くことに対しては、あまり積極的ではないように感じる。

昨日一緒に行こうと言った時には、うれしそうな表情を見せたが、

それは僕が楽しませると言ったからだろう。

「叶の席あるよ。僕の隣に空席が一つあるから。

 そこに座って一緒に授業受けたり、ご飯食べたりしない?」

「修ちゃんの隣空いてるの!?なら行きたい!」

僕の隣なら消極的じゃなくなるのか。

うきうきとしている幽霊はただただ可愛かった。

優しい顔で笑う少女が、学校を辞めるほどの嫌な思い出をしたのなら、

僕が学校のいい思い出を作ってあげたい。

寿命を迎えてからも笑ってもらえるように。

「楽しくなかったら、行くの辞めればいいよ。

 その時は僕も一緒に辞めるからさ」

「ほんといつでも優しいんだね…ありがと」

僕と一緒というと喜んでくれる。

本当に僕のことを好きみたいだ。

とりあえずいい思い出をあげたい。

どんなことをしたら思い出になるだろうか。

「ご飯だけど、今日は大丈夫そう?」

ノックとともに母が心配そうな顔しながら、部屋に入ってきた。

「今日は大丈夫だよ。すぐに行くから」

「わかった。ご飯の準備して待ってるね」

母が出て行って、普段なら僕以外誰もいない部屋に、

30秒の寿命の幽霊さんがいる。

「そうだ。叶の30秒は今日じゃないのか?」

「まだなんじゃない?さすがに」

「そっか…ご飯食べに行くけど一緒に来るか?」

「うん!もちろん!!」

一緒にというと、叶は本当にうれしそうに笑う。

僕は叶と一緒にリビングに向かった。