リビングに着くと二人で食事する両親の姿があった。

「母さんごめん。もう大丈夫だから」

「じゃあご飯の準備するから座っててね」

僕は母に甘え、椅子に座った。

叶は座るのかな。

さっきからずっと飛んでるけど疲れないのかな。

でもうちには椅子が三脚しかない。

叶用の椅子を準備した方がいいのかな。

「体調は大丈夫なのか。母さんからさっき修太朗が変だったと聞いたが」

「もう大丈夫だよ」

「なんでも幽霊が見えたとか」

叶のことを話したとして父は信じるだろうか。

少し目を向けると叶は笑っていた。

「少し見えたんだ。見えたような気がした。夢だったかもしれないけど」

とりあえず今ははぐらかしておこう。

「さあさあご飯だよ。たくさん食べな」

今日のご飯は天ぷらだった。

今朝はいろいろと重なったこともあり、味覚がうまく働いていなかったように感じる。

味もしなければ、ご飯の温かさすらも感じなかった。

箸で一口分を口に運ぶ。

「おいしい…」

あまり食事に期待はしていなかった。

だけれども今晩の夕飯は、ご飯の温かさもおいしさも感じることができた。

少し緊張や考え事が減ったこともあるのだろう。

それに今朝の食事が作業になっていたこともあり、この食事は幸せそのものだった。

それを見て、ニコニコとほほ笑む叶がいた。

僕は目の前の幸せを口に何度も運ぶ。



あっという間に食べ終わってしまった。

はじめは食事を見られていて少し恥ずかしいと感じたが、途中からは気にならなくなっていた。

「ごちそうさま。僕は部屋に戻るよ」

「ちゃんと休むんだぞ」

父からの声はいつもより優しかった。



「ご飯おいしかったでしょ!」

「すごく」

「あんな幸せそうな修ちゃんを見ることができて、私もおなかいっぱいです」

「幽霊になってから何も食べてないのか?」

「そうだね~おなかは空かないし。食べてないよ」

「そうなのか」

幽霊って寂しいな。

死んでしまっても、未練か何かからこの世界に漂って。

楽しみもあまりないのだろう。

僕が叶を見えていなかったら、叶の声が聞こえなかったら、

目の前で見せてくれている、この笑顔はないのだろう。

「なにか考え事?」

まずは叶が喜ぶことをしてあげるのがいいかもしれない。

楽しみを作ってあげたい。

「叶は昼って外に出れるのか?」

「多分大丈夫だよ!」

「明日は学校に行ってみないか?

年も近いと思うし、学校に行ったら何か思い出せるかもしれないよ」

「修ちゃんと一緒なら行くよ!」

できるだけ早く、この女の子をはやく楽にしてあげたい。

僕のことを好きと言っていたが、僕が叶のことを見えて話せているからだろう。

ちゃんと成仏させてあげよう。

こんないい子に辛い思いをさせないように。



部屋に戻り、宿題をするために椅子に座って机に向かう。

「叶は先に寝ててもいいぞ」

「じゃあ寝ちゃおうかな。おやすみ!修ちゃん」

「おやすみ」

ベッドで横になった少女を横目に、何もない机の上に教材を広げる。

しばらく問題を解いていたが、あくびが止まらなくなっていた。

「僕も早く寝よう」



問題を解き終えた僕には、もう動く気力は残っていなかった。