僕の前に現れた少女に対して問いかける。

「どうして僕なんかと一緒に居たいんだ?」

「決まってるじゃん!私はずっと修ちゃんのことが好きだからだよ!」

一緒に居たいとか好きだとか、言われるとさすがに照れてしまう。

「まあ30秒ぐらいなら許容するか。ってもう10秒ぐらいしかないか」

「そんなことないよ!30秒って意外と長いんだよ~」

「はいはい。あと5秒ぐらいかな」

「まあまあ私の中で30秒経ったらいなくなるからさ~」

「まあ好きにすれば」

「ありがと!好きにさせてもらうね!

どのみちあんまり時間もないし。あとその塩意味ないよ~」

にやにやしながら馬鹿にしてくる幽霊の少女には、どこか安心感があった。

僕は結局誰かといることが好きなのだろう。

そして相手は誰でもいいのだろう。幽霊だろうが、人だろうが。

「っていうか、私の中でってどれだけ居座るつもりだ!

だいたい寿命なら、自分で決められるものじゃないだろ」

「30秒は30秒なんだけど、この30秒は私にもいつ終わるかわからないものなの。

今日迎える30秒かもしれないし。明日迎えるかもしれない」

僕の前にいる少女は、寂しげな表情をして話していた。

「だったらそれって僕がいつ死ぬかわからないのと同じなんじゃ」

「それは違うよ!私の死はもう30秒後で確定しているの」

茶化している感じはしない。

真剣な表情で、幽霊は自分の死について語っていた。

「そもそも幽霊なんだから。死んで未練があるからいるんだろ。

なんだか今も生きてるみたいな言い方してさ」

「それは…えへへ」

うまく誤魔化されたような気がする。

嘘をついている感じはしないが、言っていることはめちゃくちゃだ。

周りが持っている、僕が殺人をしたという記憶のような曖昧さだ。



幽霊と話していたとき、僕の部屋をノックして母が入ってきた。

「ご飯できたけど、誰としゃべってたの?」

「いや、ここにいる幽霊と」

「…修太朗は多分疲れてるのね。好きなタイミングでおいで」

心配そうに僕を見る母。

幽霊を見るほどに疲弊していると思っているのだろう。

「ごめん。少しだけ休んでから行くよ」

母はリビングへと帰っていった。

「お前ほかの人には見えないのな」

「そうみたいだね。まあ修ちゃんが見えてればいいや」

この子の嘘か本当かわからない発言に惑わされてしまう。

「あと私のことは叶って呼んで欲しいな…」

「まあいいけど…しばらくよろしくな叶」

呼び方を指定した叶の顔は少し悲しそうだった。

「そういえばさっき自分の名前言う時、かの…とか言わなかった」

「それはね…昔の名前なんだけど…
 
せっかく幽霊になったし、過去にこだわらないようにしようかなって」

今度は割り切ったのか、叶はかなり明るい顔になっていた。

しっかり姿を見ていなかったが、叶はロングの髪がよく似合う。

顔も整っていることもあり可愛い。

年も同じぐらいだろうか。

「そういえば叶はどうして幽霊になったんだ?」

「うーんとね…よく覚えてないの。昔のことは…」

さっきまでの会話とは違う。少し濁されたような印象を受ける。

もしかしたら覚えているけど、話したくないことなのかもしれない。

笑顔を見せてくれている少女の顔に、僕はどことなく空虚な印象も受ける。

「そっか。なんか目的があって成仏できなかったのかな」

「私ね、死んだときに退屈しないぐらい楽しい思い出が欲しいの。

寿命は決まってるんだし、せっかくなら悲しいことより楽しいことをたくさんしたい!」

「じゃあ僕も手伝うよ」

「ほんとに!ありがとね修ちゃん!」

今は詳しくは聞かないでおこう。

それに思い出ができたら、叶はいなくなってくれるだろう。

正直部屋の中に知らない少女が、それも幽霊がいるのは怖い。

見た目は良いと思う。

だから、なおさら嫌なのかもしれない。

幽霊と言えど緊張してしまうから。

「そろそろご飯食べに行こうよ!いっぱい食べて元気だそう!」

「そうだな。でも元気がない原因少しは叶のせいでもあるからな」

「えへへ。ごめんね」

僕は少女と一緒に食事をするためリビングへ向かった。

「そういえば幽霊は食事するの?」

「食べないよ~箸とかも持てないし」

「なら部屋にいてもいいよ。ほかの人には見えないにしても退屈だろうし」

「一緒に行くよ!修ちゃんが幸せそうにご飯食べるとこみたいんだ~」

「なんか恥ずかしいな」

「それに今日からのご飯は昨日よりもきっとおいしいよ!」

「なんで」

「まあ、なんとなくそんな気がするんだ!」

結局二人でリビングへと向かう。