体育が終わり、生徒たちが帰ってきた。

帰ってきた生徒は着替えが終わっていた。

(美月に更衣室を使ってもらえば、廊下に出る必要はなかったのでは…)

そんな省エネ的な思考を巡らせていた時、担任の藤田先生が教室に入ってきた。

「帰りのホームルームをはじめるぞ。席に着け!」

しゃべっていた生徒たちは席に着き、僕も顔を上げた。

だらだらと連絡事項を話された後に、全員で挨拶をした。

今日はさっさと帰ろうと思い、リュックを背負うと和樹が寄ってきた。

「おい、お前殺人犯なんだって?」

「和樹君も知ってたの?でもそれ間違った情報でそんなことしてないよ」

「だよな。お前じゃそんなことできないよな。

 まあいいや、明日は金ちゃんと持って来いよ」

そう言い残し和樹は帰っていった。

僕には視線が集まり、ざわざわと噂されていた。

美月は心配そうに僕を見ていた。

今は目立たないように帰ることが僕にできることだと思い、教室を後にした。



帰り道にすれ違う見知らぬ人からの目線はそれほどなかった。

ただ僕のことを知っている人は、おびえたり、睨んだりしてきていた。

僕が殺人をしたという情報は、僕のことを知っていないと判断できない。

つまり僕を全く知らない人は“修太朗という人間が人を殺した”ということを知っているに過ぎない、と考えられる。

あくまで仮説だが、ほとんどに憎まれ続けるわけではないと考えられるので、少しホッとした。

気にしないとしても、やはりどこか疲れてしまうからだ。



考え込んでいる間に僕は家に着いた。

「ただいま」

ドアを開け、僕が声を出すと

「おかえり」

と母の声がした。

靴を脱ぎ、靴箱にしまい振り返ると、リビングから母が出てきていた。

「学校ではどうだった?」

「なんとも言えない。先生も知ってた。だけど正直に知らないことを話したら信じてくれたみたい」

「そうなのね。私は結局何も思い出せなかったの」

母は知らないと話した。僕は学校でも聞いた質問を母に投げかけてみた。

「母さん、昨日僕はどこに行った?」

「学校に行ってたはずよね。だけど裁判所から呼び出されたから迎えに行ったの。」

「さすがに捕まって一日で判決まで行くかな?」

「だから何かの間違えだったんでしょ。それで迎えに行ったんだから。

 まあまあ少し休んできな。夕食になったら起こしてあげるから寝ててもいいわよ」

僕は少し笑ってうなずき、自分の部屋に向かった。



部屋に入り、リュックを勉強机の横にかけ、僕は椅子に腰を下ろした。

「なんかよくわからなくなっちゃったな」

「なにがわからないの?」

「いやだって、みんな言ってることめちゃくちゃで統一感が…って」

僕は誰と会話したんだろう。

椅子をぐるっと回転させて僕は問う。

「誰かいるのか?」

「怖がらないで」

どこかから聞こえてくる声は、どこか暖かく優しい声をしていた。

「どこにいるんだ!」

「どこにいると思う?」

少し笑いながら、僕の周りをぐるぐると回るように声が響いた。

「誰だ!」

「そんな怖い顔しないでよ!」

「いや怖いだろ!どこかわからないんだから」

「じゃあそろそろ、こっち向いて」

「どこだよ!こっちって?」

「上だよ~ う・え!」

うきうきとした声で言われるが、怖いものは怖い。

僕は恐る恐る上を向いた。

「わっ!」

「うわぁぁ!!」

僕は椅子からころげ落ちた。

上を向いたときにいたものを見てしまったら、誰でも同じ反応をするだろう。

上には少し透けている女の子がいたのだから。

「びっくりした?」

ニコニコしながら彼女は僕に笑いかけてきた。

「私はね、かの…じゃなくて(かなう)だよ。

 よろしくね!修ちゃん!!」

幽霊の女の子は、僕の前に突然現れた。

僕は怖くて部屋を飛び出して、キッチンに向かった。

そしてキッチンから塩をとり、部屋に戻った。

「おい出てこい、叶とやら!」

「ダメダメ、怖い顔しないで!話を聞いて!

 悪いことするために来たんじゃないの」

「じゃあ目的はなんだ!」

「修ちゃんと少しだけ一緒に居たいだけなの」

僕はこの一言に不覚にもドキッとしてしまった。

「なぜ?」

「30秒だけでいいの…

 私の寿命はあと30秒なの…

 その30秒の間だけ一緒に居させてほしいの…お願い…」



突然現れた叶と名乗る幽霊の少女は、僕と一緒に居たいと言った。