1on1。それはバスケにおいての1対1のゲームのことを指す。決められたマッチポイントを先取した方が勝つという、いたってシンプルなルール。

それをなぜ、この卒業式という先輩方の晴れ舞台の日に挑んだのか…。

結論から言ってしまえば、入念な準備をする必要があったから。俺に。

なんせ勝負を挑む相手は、入学以来の憧れである高杉先輩。簡単に勝てるはずないということは、いくらバカな俺でも分かる。

高杉先輩は女子バスケ部のエースとして圧倒的強さを誇る上、誰もが振り返るような高身長と美貌を併せ持つという、まさに『カッコ可愛い』と呼ぶに相応しいお方。

そんな先輩に一目惚れしたんですよ、ハートにダンクシュートを決められたんですよ。入学したてホヤホヤの夏輝くんは。

それからは毎日部活の度に先輩を盗み見て、目が合えばこっそりガッツポーズをしたり、頑張って話しかけたり、話しかけてもらったりという、なんとも初々しい青春を謳歌していた。

しかし、時の流れはあっという間で気づいたら卒業式まで残り1ヶ月。

なんとしてでも先輩との繋がりを保ちたい俺は、ある名案を思いついた。

勝負をしよう!それで勝ったら何でもお願いを聞いてもらえるっていう!!

そしたら高杉先輩に、『卒業しても練習を見に来て下さい!』って自然に、スマートに伝えられるんじゃね⁉︎俺、天才!!

それからはもう丸1ヶ月間、それまで以上に先輩のファームやら癖やらを観察し分析し…たまに先輩の可憐さにうっとりして…。

今日の1on1に備えてきたというわけだ。