3月、桜が咲き始める今日この頃、うちの学校でも卒業式が行われた。

式の後の3年生棟は、笑い声や泣き声がごちゃ混ぜになった喧騒に包まれている。

そんな賑やかさには不釣り合いな、気怠げな声が隣から上がる。半ば強引に引きずってこられて不貞腐れている幼なじみ・凛太郎だ。

「えー…夏輝ぃ、マジでやんのぉ?」
「ああ。男に二言はない!」
「いっつも優柔不断なくせしてよく言うな」

うっさいわ。卒業式っていうのはな、3年生はもちろん、俺ら後輩にとっても一大イベントなんだよ!

と、言いつつも。この騒ぎじゃあ、先輩に声をかけるどころか見つけることさえもできない。

いやいや、夏輝!こんなところで諦めるようじゃ、話にならない。

ここは男を見せるんだ!!

俺は肺に限界まで空気を溜め…、一気に吐き出す。

「せんぱぁい!!」

周囲の目が一斉に俺に集まる。巻き添えを喰らった凛太郎が恨めしげに「恥ずいって…」とこぼす。悪いが今は気にしてられない。

「せんぱぁーい!高杉せんぱーーいっ!」
「夏輝、なに叫んでんの」
「おわっ⁉︎」

まさかの背後からの登場に肩が跳ね上がる。

綺麗に切り揃えられたショートヘア。長めの前髪の奥からこちらを除く大きな潤んだ瞳。

このお方、俺の永遠の女神様です。

今日も変わらずお美しい………。

我を忘れて先輩に見惚れる俺の学ランの袖を、凛太郎が乱暴に引っ張る。

そうだ、悠長にしている暇はない。

俺は選手宣誓の時のように姿勢を正し、前々から用意していたセリフを告げる。

「先輩!俺と1on1しましょう!!」