「……俺さ、ずっと思ってたんだけど」
「うん」
「逢沢さんて、面倒見がいいよね」

 名前を書く手が止まる。

「面倒見が、いい?」

 思わず訊き返す。王子くんは、強くうなずいた。

「いや、ほんとあまり関わってないのに何言うんだって思われるかもしれないけど、そう思って」
「うん」
「ペアワークのときも色々考えてくれたし、気を配れるし、生徒会もみんなのことを裏で支えてくれてるのとか、ほんと面倒見いいし、……そこまで人のためにできること、なかなか無いと思うんだよね」

 ……なんだか、ジーンとした。
 そんなことはじめて言われた。

 わたし、面倒見がいい?

「ごめん、変なこと言った?」
「――ちがう、初めて言われたから、驚いて」

 ……そうか。
 面倒見がいいのか。わたしは。

「だからね、サポートする仕事とか向いてると思う」
「サポートする、仕事」
「ほら、マネージャーとか? あとは、先生とか」

 少し笑うと、王子くんは窓の外を見ながらオレンジジュースを飲んだ。
 梅雨の中休み、薄く広がった青空から溢れる光が、王子くんの綺麗な横顔を照らした。ああ、まるで映画のワンシーンみたいだと思った。

 王子くんの顔は、スポットライトもないのにきらきらと輝いて見えて。
 ……やっぱり好きだなと、改めて思った。

 その横顔を見つめて、抹茶ラテを飲む。まったりと甘い味がする。

 わたしのやっていることを、ちゃんと見てくれる人がいるんだな。そしてそれが王子くんだとわかって、嬉しい。

「おーし、やるぞー!」
「うるさい中村」

 その声に我に返った。ドアの方を見ると、亜子ちゃんと中村くんが大きな箱を抱えていた。
 わたしはとりあえず、まだ白紙のままの進路調査書を片付ける。

「よし、やろっか!」

 どんよりとした雲から晴れ間が差すように、少しずつ、わたしの心にも晴れ間が広がっていった。