これはきっと、恋じゃない。


 ガラス戸の向こう側には、男の子3人が円になって座っている。わたしは胸を膨らませて、大きく息を吸って吐く。

 ……緊張する。

 こちらに背を向けているのは、王子くん。その隣は館町先輩と菅凪先輩。2人とも昨日テレビで見た。

 テレビで見た人たちがすぐ近くにいるの、どういうことなんだろ。……いやいや、今はそんなこと考えるときじゃない。

 よし。
 当たって砕けろだ。

 わたしは意を決して、ガラス戸を思いきり開いた。

「あ、あの!」

 すると、3人の視線がわたしに集中した。
 特に館町先輩は、わたしのことをぎろりと睨んでいる。

 ひ、ひぃぃ!
 そういえば館町先輩、睨みすぎて事務所から怒られたんだった!

「なに?」

 館町先輩は、低く怒っているような声でわたしを睨んだ。思わず背筋が伸びる。

「お、王子くんに用事がありまして!」
「俺?」

 王子くんが自分のことを指差して、立ち上がる。
 が。

「の前にさ、なんの用事か教えてもらってもいい?」

 その前に、館町先輩が立ちはだかった。

「智成くん、逢沢さんはそういうんじゃないよ」

 なんの話だろ。
 2人が探り合うようにお互いを見つめ合っているのを見ながら考える。
 ……ん? え、もしかして、勘違いされてる?

「――いやいやあの! わたしは、ペアワークのことで用事があるだけで!」
「ペアワーク?」
「世界史だよ」
「ああ、山田先生のか」
「そうそれです!」

 王子くんは安心させるように、にこりと笑ってわたしと目を合わせる。
 でも、目を合わせれば合わせるほど、昨日のことが思い出されてしまう。

 ……目を合わせていられなくて、ネクタイの辺りに視線を移す。

「……放課後、時間ありますか」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、また図書館でお願いします」

 それだけ言って、くるりと踵を返す。
 無理だ! もう耐えきれない!

 わたしは走って逃げるように、教室へと戻った。