これはきっと、恋じゃない。



 部屋に戻って、髪を乾かしながら考える。
 やっぱり、王子くんってすごい人なんだな。

 学校での騒がれようを思い出すと、相当人気があるんだとわかる。

 …………。

「う……わあああ!」

 うっわぁ!
 まってまって、やばいこと起きてるよね!?
 なにあれ!?

 冷静になって一人になると、やっぱり思い出してしまう。
 どうしよう、やばいって!

 ……待てよ。

 王子くんてば、なんのつもりであれをやったんだろう。
 ――いやいや、女の子たちからバレないためじゃん!
 それ以外に深い意味なんてない。……ないに決まってる。

 わたしってば、なにを考えようとしてるのよ。
 髪の毛を乾かし終えて、スマホを見る。なんとなしに開いたSNSは、トレンドの画面で立ち上がった。

 そこに、名前がある。使命感にも似た気持ちでそれをタップする。

 王子遥灯、セレピ。
 ……なに書かれてるんだろ。

『かっこよすぎ』
『王子遥灯やばい』
『セレピめちゃくちゃ歌上手くなってるな』
『やっぱりセレピってデビュー近いんだろうな』

 絶賛の嵐だった。

「……はぁ」

 ていうかわたし、最低なことしたよね。
 自分から誘っておいて、あんなことされたからって逃げるなんて。

 机の上の卓上カレンダーを見つめる。発表まであと6日。土日を挟むから、準備が全くできないわけじゃない。

「やっぱりちゃんと、謝らなきゃ」

 明日、きちんと会って謝らなきゃ。
 それで、発表の準備またやらないと。

 わたしはスマホを閉じると、遠ざけるようにベッドに放り投げた。