これはきっと、恋じゃない。


 あれからどうやって帰ったのか、ほとんど記憶がない。

 気がついたらお風呂から上がっていて、タオルを肩にかけたままソファに座っていた。

 ぼーっとする。
 あれは、夢?

 目の前にあのときの景色が鮮明によみがえってくる。カーテンの埃っぽい匂いと、王子くんの甘い匂い。
 ……ああだめだ、思い出しただけで心拍数が上がる。

 でも、せっかくペアワークを進めるチャンスだったのに、自分から捨ててしまった。
 ……王子くんにも、悪いことをしてしまった。

「千世、髪の毛乾かしなさいよ」

 大学から帰ってきたばかりのお姉ちゃんが隣に座る。ソファがすこし沈んだ。

「ん……」

 お姉ちゃんはリモコンを手に取ると、チャンネルを変えた。テレビの画面はニュースからバラエティに切り替わる。何人かの芸能人が映る中、どこか見覚えのある顔がその中にあった。

 ――王子くんだった。

「お……うじくん……」

 王子くんは画面の向こうで、あの王子様スマイルを浮かべている。ちゃんとセットされた髪の毛におしゃれな衣装が相まって、学校で見る王子くんとは雰囲気がちがい、本当にかっこよく見えた。

「ひゃああぁぁ」

 うう、直視できない。
 肩にかけたタオルで顔を隠す。

 わたし、あの人に、後ろから抱きしめられて、それで!

「なにその反応、千世って王子くん推してたっけ」
「ち、ちがう」
「じゃあなによそれ」

 ……言えるわけがない。
 いくらお姉ちゃんとは言え、そんなのバレたら終わる。

 ここは平静を装わなきゃ。わたしは胸を膨らませて深呼吸する。

「……別にっ?」
「いるいる、好きになったのに認めたがらないオタク」
「一緒にすんな」