これはきっと、恋じゃない。



「ねー、ほんとにいるの、遥灯くん!?」
「いるいる、図書館行くって聞いたし!」

 ガチャッと勢いよくドアが開くと、大きな声で会話をする女の子たちが入ってきた。

 ……うわぁ、なんかやだなぁ。
 そう思った、瞬間。

「――逢沢さんごめんっ!」

 ぐいっと、からだが引っ張られた。
 ――なにが起きているのか、よくわからなかった。

 背中に感じるあたたかい温度と、伝わってくる規則正しい心臓の音。目の前を覆うクリーム色のカーテンの埃くささと、ほんのり甘い匂いが混じる。

 ……どうやらわたしは、王子くんに後ろから抱きしめられていて、なおかつ密着した状態のまま、カーテンの中に隠れている、らしい。

「あれー、いなくない?」

 心臓が、どんどん早くなる。すぐ近くにある空気は王子くんの匂いがして、やっぱり甘い。少し上では王子くんの息遣いが聞こえて来た。

 顔に熱が集まっていくのがわかる。
 静かすぎるせいで、心臓の音が王子くんにまで聞こえてしまいそう。

 はやく! 
 お願いだから、はやく行って――!

「いなくなーい?」
「どっか行ってんのかなぁ」
「かなー。えー、チャンスだと思ったのにぃ」

 女の子たちの声が少しずつ遠ざかっていく。それから少しして、ドアを閉める音が聞こえてこた。

 耐えられなくなって、わたしは突き飛ばすように自分から離れた。

「ごめんね、いやだった――」

 その言葉を最後まで聞かずに、わたしはその場から走り出した。テーブルに置いたままにしていたリュックを引ったくるように取って、とにかく走って図書館から出た。