これはきっと、恋じゃない。



 予想通り、そこには王子くんがいた。
 この間と同じ場所で、でもひとりでガラス戸に向かって踊っている。

「王子くん」

 ガラス戸をノックする。
 わたしに気づいた王子くんがこっちを見て、はめていたイヤホンを外しながら戸を開けた。

「逢沢さん?」
「ごめんね、また練習中に」

「いいよ、気にしないで。どうかした?」
「あの、課題のことで話が」
「課題?」

 うなずく。
 ガラス戸から入って、屋根のない日当たりのいい場所に腰掛ける。昼下がりのあたたかい陽気が、からだをあっためていく。

 少し離れて、王子くんが隣に座った。ほんのりと甘い匂いがした。

「世界史の授業でね、ペアで国を決めて歴史を調べて発表っていうのがあって、わたしと王子くんがペアなの」
「え! そうなんだ」
「それで、もう発表まで1週間切ってて」

 視線を王子くんから逸らして、ウッドデッキを見つめる。濃い影が2つ並んでいる。

「まって、それって俺が休んでたから全然進んでない、よね」
「……まぁ」

 そう言うと、王子くんは「うっわー」とまあまあでかい声で叫んだ。

「ほんっとにごめん!」
「そんな、いいよいいよ。しょうがないことだし。……それに、一応まだあと1週間あるし」

 なんなら、国さえ決まればわたしが勝手にやるし。
 そう付け加えると、王子くんはふいに硬い声音になった。

「それはだめでしょ。俺もちゃんとやるから」

 ドキン、と心臓が掴まれたような心地がした。

「だよね……ごめん」

 余計なことだったかな。

「ちょっと待ってね」

 王子くんはポケットからスマホを取り出す。スケジュールを見ているらしい。ちらっと見えたけれど、ほとんどの曜日に何かしらの用事が入っていた。

「今日は放課後レッスンがあるからだめだけど、明日なら大丈夫!」
「ほんと?」
「うん、明日やろう。本当に迷惑かけてごめんね」
「全然! じゃあ……」

 戻ろうと、立ち上がりかけたときだった。

「逢沢さんはさ、聞かないんだね」
「……え?」