そんな感じでとりとめもない話をしていると、佐藤先生がいる職員室が見えてきた。

「手伝ってくれてありがとう。もうすぐそこだから、大丈夫」
「ほんと?」
「うん、乗せて。それに、ダンスの練習途中だったよね」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」

「ほんとにありがとね」
「うん! それじゃあ、バイバイ!」

 王子くんは笑顔で手を振ると、踵を返して元来た道を帰っていった。

 ……やっぱり、背高いな。
 何センチなんだろう、聞いてみればよかった。

 足も長いし性格も優しいし。ほんと、名前の通り王子様みたいな人だ。

 小さくなった背中を見つめて、我に返りドアをノックした。

「失礼しまーす。佐藤先生、持ってきました」
「おっ、ありがとな。もう遅刻すんなよ」
「しませんよ……たぶん」

 さすがにしないとは言い切れない。わたしは思いきり佐藤先生から視線を逸らす。

「たぶんって、お前なぁ」
「さすがに言い切れないです」
「そこは言い切れ」

 先生は資料を机に置くと、引き出しから何かを取り出した。そして戻ってくるとわたしの手のひらにそれを載せた。アメだった。

「ほい、お駄賃。入学式の準備も頼んだぞ副会長」
「はーい」 

 職員室から出て、一息吐く。
 副会長、か。

「……なりたくてなったわけじゃないんだけどな」

 腕時計を見る。色々ありすぎて忘れそうだけど、今から入学式の準備だ。それももうすぐ集合時間になる。

 溜め息をひとつ吐いて、わたしは講堂へと足を向けた。

『すごいね、かっこいい』

 なぜかそのとき、王子くんが言ってくれた言葉が蘇ってきた。