「逢沢さん、生徒会の副会長なんだっけ」
「う、うん」
「すごいね、かっこいい」
「全然すごくないよ。押し付けられたようなもんだし」
「でもなんか、青春って感じがするよ」

 ……その声が、少しだけ寂しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。
 階段を降りながら、踊り場の鏡に映る姿を見る。王子くんは背が高くて、身長の差が結構ある。何センチなんだろう。

「今朝、何で遅刻したの?」
「えっ」突然話しかけられて、思わず王子くんの顔を見る。

「あ、ごめんね。新学期から遅刻なんて珍しいなって思ったから」
「ああ……ううん、大丈夫。その、朝方までドラマ見てて、そのまま寝落ちしちゃって」

 副会長とかやるやつが、ドラマ見ながら寝落ちして遅刻なんて恥ずかしい。しかもアイドルの前で言うことじゃないよ……。

「俺もよくやるよ、それ」
「いいよ気を遣わなくて……」

 傷口に塩をぐりぐり塗り込まれてるような気がする。ああ沁みる。

「なんのドラマ見てたの?」
「『春よ恋い!』っていうやつ」
「あ、cipherの楢崎永久くんが主演のやつか!」

「うん。お姉ちゃんが楢崎永久のこと好きで、すすめられて」
「へぇ! あの永久くん、めちゃくちゃかっこいいよね」
「うん、すごくかっこよかった!」

 楢崎永久の話をするとき、王子くんはすごく楽しそうだった。もしかしたら憧れているのかもしれない。そう思って聞いてみる。

「やっぱり、同じ事務所の先輩には憧れる?」
「うん! 俺さ、永久くん見てアイドルになりたいって思ったから」
「わ、夢叶ってる!」

「て言っても、まだ候補生なんだけどね」
「でも、候補生になるのもすごいことじゃないの?」
「……なのかな」

 十分すごいと思う。
 だってわたしには、なりたいものも将来やりたいことも、なにもない。
 そんなわたしに比べたら、きちんとやりたいことを見つけて頑張れている王子くんは、本当にすごいと思う。