――もう、ここには来ない。

 王子くんとも、今までみたいに話せる気がしない。たぶん王子くんを目にすると、わたしは”良い子”でいられなくなる。

 頭の中をぐるぐる、いろんな言葉がよぎった。言いたいこともたくさんあった。このまま振り向いて、顔が見たかった。

 でも、それはできないから。
 出てきそうな言葉はすべて無理やり呑み下す。

 前を向く。目尻から、熱い涙があふれてきた。

 ……これはきっと、恋じゃない。
 恋だと勝手に信じて思っていただけで、本当はそうじゃない。本当は、ただ”推し”だっただけなんだ。

 窓ガラスから背を離す。背筋を伸ばして、一歩踏み出した。溢れ出る涙はそのままに、とにかくここから離れることだけを考えた。

 恋じゃない。
 王子くんへの好きという気持ちは、ベクトルが違う。

 そう言い聞かすしか、わたしにはできなかった。