手招きされて、佐藤先生の後に着いていく。しばらく歩いて、職員室も通り過ぎて行ったことのない場所に向かう。

 2階の奥、突き当たり。看板が出ている。相談室。

「――なんで」
「まぁ、入って」

 中に入ると、若い男の人がソファに座っていた。でもわたしと佐藤先生が入ると、その人は立ち上がり礼をした。

「すみません、朝早くに。セレンディピティのチーフマネージャーをしております、林といいます」

 丁寧な挨拶とととに、名刺を渡された。見覚えのある事務所のロゴが入っている。

「逢沢千世さん、ですね」
「はい……」
「あ、どうぞ座って」

 座ると、思いの外ソファの弾力が強くてからだが沈んでいく。

「……まずは、うちの王子遥灯のせいで逢沢さんにとても迷惑をかけてしまって、申し訳ありません」

 頭を下げられるなんて、思ってもみなかった。
 そのことに、やっぱりわたしはだめなことに王子くんを巻き込んだんだな、と気がつく。それがたとえ、わたしからじゃなかったとしてもだ。

「大丈夫……なわけないですよね。自分の写真が、ネットに上がるんですから」
「……わたしは、大丈夫です」
「そっ、か。……じゃあ、聞いてもいいですか。この写真の状況」


 その言葉を聞いて、すぐにピンときた。
 この人は、わたしに謝りに来たわけじゃない。
 確認しに来たんだ。

 わたしと王子くんが、どんな関係性なのか。
 本当に付き合ってるのか。そうじゃないのか。

 だとしたら、わたしはちゃんと自分の仕事を全うしよう。

「何もありません。このとき少し落ち込んでて。それで王子くんが話しかけてくれただけで」
「なるほど」
「たまたまペアワークのペアになったのがきっかけで、いまは席も隣だから話す機会も増えたんですけど、本当にただのクラスメイトです」

 ……嘘だ。
 思ってもないことを話すたびに、ずきんと小さく胸が痛んだ。
 ただのクラスメイト? そんなわけない。
 ――わたしは。わたしだけは、そんなこと言っちゃいけない。

 王子くんは、わたしの、好きな人。
 でも、どれだけ想っても、その気持ちは届かない。遠いところにいるみんなの憧れの王子様だから。

 また、音が遠ざかっていく。高音の耳鳴りが聴覚を支配する。

「……わかりました。それを聞いて、安心しました」
「ほんとうに、迷惑をかけてすみません」
「いいえ。逢沢さんは悪くないです。少なくとも、あなたは被害者ですし」

 いやだ、そんな言い方しないで。
 それじゃまるで、王子くんが悪いみたい。
 王子くんはなにも悪くない。
 悪いのはぜんぶ、わたし――。