「よかったです」
それだけ口にできた。
私からは、
そんな言葉で十分だと思えた。
前髪がまた
いたずらな風に遊ばれる
風が冷たい
「制服で夜は危ない」
ギターケースを閉めながら言う
「そろそろ帰んなよ」
微糖のコーヒーは
とっくに冷めた感覚があった
ピチャピチャ音を立てるのが
小さく響いた
「そっちは…」
彼が立ち上がったと同時に
声が出た。
あぐらをかいていた分の足は
すらっと長くて
うつ向いていたのを
見上げる姿勢に直す必要があった
首の裏がこりこり響いた
「帰るところ、あるんですか…?」
「…敬語、疲れない?」
微笑みながら彼はそう残して
彼はゆっくり消えていった
午後11時23分。
しっかりと針が指していた。
疲れを見せることのない
公園の時計。
一瞬、
足から頭の方にまで
しびれが伝わった気がした。
