(ここに達するまで、本当に……本当に長かった)

 フラージリア王国の中でも未婚の令嬢としては五本の指に入るほどに身分が高いブライアント公爵令嬢オフィーリアは、艶やかな青いドレスに身を包み貴族学院での卒業パーティーが開催される会場へと一歩足を踏み入れた。

 重いドレスを揺らし踵の高い靴で一歩一歩歩く毎に、やり遂げたという達成感が心の奥底からじわじわと込み上げた。

 彼女が生まれ変わった世界の乙女ゲームが、やっと本日エンディングの場面を迎える。


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 オフィーリア・ブライアントが、前世で一周のみ全ヒーロー攻略をした事のある乙女ゲーム「ファーストキスの味を知らない」略してファ味の世界に転生した事に気がついたのは、八歳の時だった。何故一回だけかと言うと、そこで記憶が途切れている。

 階段の踊り場から足を踏み外して、頭を打った強い痛みよりも何よりも、膨大な知識が流し込まれてくる激しい勢いに耐えきれずに意識を失ってしまった。

 目を覚まして鏡を見て、お付きのメイドに名前を呼ばれ、自分が現在悪役令嬢に生まれ変わっていることは嫌々ながらも理解することは出来た。まだやり込んではいない乙女ゲームではあったものの、前世一番好きなヒーローの婚約者役であったから名前も覚えていた。

 しかも、今週末には破滅フラグの一番目となる王太子との婚約者になるために、その候補者の一人として集められた顔合わせの予定が入ってしまっている。

 ゲーム内でヒロインが王太子を攻略対象として選び、その婚約者オフィーリアが悪役令嬢として断罪されてしまえば、その行き着く先は投獄国外追放娼館行きなんでもありだった。

 ヒロインが選択肢をひとつ間違えてしまば、彼女を陥れようとするオフィーリアもバッドエンドへの道連れとなるのだ。

 そんな地獄への入り口とも言える王太子との顔合わせのお茶会は、行きたくないから行かないと言えるような生易しい代物ではなかった。下手すると何の罪もない父親が王家に叛逆の意志ありとして、失脚させられる危険性も秘めている。

 そのくらい重大な、王族の婚約者選びのお茶会だ。

 今回は幼い二人の王子に、年齢の近い貴族令嬢で見繕われた様々な条件を乗り越えた者のみが厳選されている。選ばれし者のみのお茶会への招待状だ。

 父は現王の片腕とも言われ、そんな父に養われている身分の娘が、何か理由をつけてそんな重要な顔合わせに行かない訳にもいかない。