「岩崎くん、ごめんねっ」
「うん、鮎川さんまた明日ね」
そう言うと眉を下げて、ヒラヒラと手を振ってくれた。
______________
カバンは一向に返ってこないまま。
前を歩く蓮の背中からは
なんの感情も読み取れない。
まさか学校で蓮から話しかけられるなんて思ってもなかった。
蓮と一緒に帰るなんて、何年ぶりだろうか。
人前で私とは関わらなくなってから、下校はいつもバラバラだったから。
岩崎くんには申し訳ないけど、蓮との下校でこんなに胸がいっぱいになることに幸せを感じた。
「家、」
ついに蓮の口から言葉が発せられた。
たったそれだけでも私は嬉しくて、俯いていた顔があがった。
「父さんがつくったアップルパイあるけど、」
「た、たべたい……!」
「……そう言うと思った」
少し呆れたように鼻で笑われたけれど
少しも嫌な気持ちにならなかった。
蓮のお父さんは超一流のパティシエさん。
小さい頃は毎日のように蓮の家へ遊びに行き
よく食べさせてもらってたなぁ。
「お、お邪魔します……」
「ん、」
