「この人が私のケーキグチャグチャにしたのぉ……」
その華花お嬢様って奴が俺を指差した。
そして、20代半ばだろうか……黒いスーツの神経質そうな黒髪の男に告げ口をするから、俺だって黙ってるわけにはいかない。
「あぁ?何いってんだよ?お前が俺とケーキをぶっ飛ばしたんじゃねーか!」
「なによ!私が悪いって言うの?」
「決まってんだろ?人の心配もしねぇ、謝りもしねぇ、自分のことしか考えてねーじゃん!」
「あなたお店の従業員なのでしょう?私はお客様なのよ!?周、こいつを追い出してちょうだい!」
周と呼ばれた男が、俺等のやり取りを見て、地面に落ちている箱の中に静かに目を向ける。
「確かに、商品として代金は支払えないですね。そもそもこんなケーキを届けて貰わなくてもいいのでは……」
「こんなケーキじゃないわ!」
「こんなケーキじゃねーよ!」
台詞が被るからちょっと驚いて、その華花お嬢様と目がかち合った。その様子を見て、周がフッと優しく微笑む。
「加賀美さま、どうぞこちらへ。璃香子さまもいつも中へいらっしゃいますよ」



