「そんな、加賀美さん顔をあげてください。て、泰良くんあなた……そんな髪の色だったかしら?」
「すみません、本当に教育が行き届いてなくて……自由にさせ過ぎまして。こんな馬鹿息子のせいで、大事なお嬢さんが危ない目に合ってしまい、なんてお詫びをしていいか……」
美魔女の穏やかな口調に、母ちゃんいつもより1トーン高い声。2人の会話が続けられていく。
「こちらこそ、華花の方が泰良くんにしつこくつきまとってましたし。加賀美さんのお家にもお邪魔してご迷惑かけてたでしょう?」
「いえ、そんなことありませんよ。華ちゃん素直で良い子なので、楽しかったですよ」
「………今回の件、運が悪かったんです。ですが、お父様、お母様、泰良くんが罪悪感を抱いてしまった事はよく伝わってきますし。子供達の為にも、お互い早めに忘れた方がいいと思うわ」
母ちゃんの手の力が緩んで顔を上げると、バッチリと目がかち合った。
「今月中に、華花は私達とバンコクへ行きます」
にこっと口元を緩めて、俺に微笑みを向ける。
美魔女が怒っていないことは伝わってくる。
けど、当分、華花を日本に帰らせる気はないことも分かった。
自分の手の届くところに娘を置いておくのは安心するし、きっと華花の年齢的にもその方がいいに決まっている。
「もっと自分がちゃんとしてれば、こんな事にならなかったのに──って、そう思ってる?」
「…………んぁ?」
華花の母ちゃんの言葉に、思わず間の抜けた声が出た。



