「いっ、いのり」
「なに」
「がっこうのひと、ちかくまできてる」
「だから?」
「だっ、からその……」
「うん」
「おねがいだから、もうやめて……っ」
真っ赤になるわたしをこんな近い距離で見つめて、何を思っているのだろう。
七川はちら、と横目に歩いてくる学校のひとたち見て、そうしてわたしをまた目を向ける。
「わかった」
そうして溜息を吐いて、距離を離す。
だけどわたしの指先を軽く握ったまま。
鞄を肩に掛け直して、そうして「行こ」と学校を出る時と同じような口調でいう。
まるで、わたしが怒る隙を与えない。
気づけば、さっきまで何事もなかったかのような顔をするのだから。
わたしの彼氏は、本当に器用な男である。
「……っ」
わたしはまだ、こんなにも顔が熱いのに。
掴まれたままの指先から心音が伝わっていたらどうしよう。
ドキドキしているわたしをよそに、その指先を掴んでいた手が、指の隙間を埋めるように、ゆっくりとわたしの手を握っていく。