鞄が下に落ちそうになってもおかまいなしで、涙目のまま視線を横に向ければ、向こうの方から同じ制服を着た学生たちが歩いている姿が見えた。
はっとして、慌てて口を開こうとすれば、何を勘違いされたのか。
「いいね、もっと開いて」
そう言いながら、七川が舌を深くまで差し込んで、舌先でわたしの舌の付け根をゆるやかに突いていく。
「ふっ、ぁ」と口の端から息が零れて、足がよろけてしまえば、七川はまるで自然に、そうして抱き締めるように腰を支えた。
そのまま、建物の塀の方に身体が追いやられそうになったものだから。
わたしは渾身の力を振り絞って、その唇から逃れるように顔を逸らした。
「っ、なな、」
「祈」
「ちゃんとそう呼ばないとやめない」と言って、わたしの額にその前髪を擦り付けながらゆっくりと、伏せていた目を上げる。
「ほら、ゆる」
わたしの名前を呼んで「ん」といいながらこめかみにキスをする。
「祈」
今度は頬にキスをして、
「っあ、待っ」
そうしてまたわたしの唇を噛んだ。
「いのり」
ここは道端で、向こうから同じ学校の人が来るし、こんなことをする場所ではないってことは、十分にわたしも、そしてこの人もわかっているはずなのに。
わたしの彼氏、七川祈は変なときは甘え上手だ。
いつもはこんなこと、絶対の絶対にしないくせに。
しない、くせに。
