ここだけの話、キスをする前、七川はいつもわたしの顎を掴む。
それは指先で軽くだったり、こんな風に頬を潰すようにだったり。
彼の、七川祈の悪いくせである。
重なって、すぐに離れて目が合う。
わたしはそれだけで心臓はバクバクなのに、七川ときたら、そのまま顔を斜めにして、深く唇を重ねた。
しっとりと重なるそれは柔らかくて、息を吸うことすら忘れてしまう。
いつも思うが、七川の唇は女の子かってぐらい柔らかいから困る。
「ん、ぅっ」
後退するように、足を後ろに下げようとしたら、背中を支えるようにわたしの身体に七川の腕が回った。
この男はクールで、周りにも、色恋にも興味がなさそうな顔をしているのに。
いざこうなると人目もはばからず、やりすぎるくらい人を、物理的にも骨抜きにしてくるからあなどれない。
「ちょっと、待っ……ぅ」
手のひらでその身体を押してもとまりそうにない。
この前も外だと言うのに、唇が赤くなるまでじっくりとキスをされた。
わたしの長い髪の毛の間に指がするりと入り込んで、頭を押さえられる。
瞼をぎゅっと閉じて、その制服を握り締めれば、七川の肩にかかっている鞄の取っ手がするりと傾いていった。
