それは、きみのあまいくせ









靴を履いて、爪先で地面を叩く。

七川はいつも立ったまま靴を履く。



そうして履き終わったら鞄を持ち直し、「行こ」と必ずこちらを振り返る。

それは中学の時から変わらない、七川のくせのようなもの。

「うん」

と、頷いて靴箱を支えにして靴を履くわたしを、七川はいつも黙って見ている。

「オッケー」と隣につくと、「ん」と歩き出す。

まさにここまではルーティンである。



昇降口から出て、わたしも鞄を持ち直したところで「てかさ」と七川は不満げに口を開いた。


「また苗字で呼んでんだけど」

「あ」

「あ。じゃない、いつになったら慣れんだよ」


ふん、と顔を逸らす七川が、少しだけ唇がほんのり突き出す。

不貞腐れてるときに、よくするその表情。

きっと彼のくせである。

この瞬間、年相応らしく彼が可愛らしく見える。


「ごめん、中学の頃からずっとそう呼んでたから慣れなくて……」


正直その反応がついみたくて、わざと呼んでると言ってもいいんだけど……。


「ふーん」