「ゆる、聞いてる?」
「え? ああ、もちろん聞いてるよ! それで、ここのXに5が入るんだよね?」
「いや、そんな話してない。この方程式をまず使えって言ったんだけど」
「あ……ごめん」
「全く……あと30分で出なきゃいけないんだから、さっさと終わらせろよ」
呆れたように言いつつ、わたしの頭を軽く撫でて、ほんのりと笑ってくれる。
いつもはそんなに優しくない目も、わたしの頭を撫でてくれる今だけは甘い気がする。
や、やっぱり、格好いい……わたしの彼氏は。
これは決して、色眼鏡などではないと思う。
それから、30分とはあっという間で、結局勉強には集中出来ずに帰宅時間となった。
やっぱりわたしは、勉強ごとだけは一人でする方が向いている。
さっさと廊下に出てしまった七川の後を追って、鞄を肩に駆けながらその隣に並ぶ。
夏も近いせいか外は大分あたたかくて、春の風らしく柔く草木を揺らしていた。
「ねえ、七川はなんでそんなに集中できるの?」
「逆になんでそんなに集中できないんだよ」
また呆れたように言われる。
全部あなたのせいなんですが、だなんて言えるわけはない。