「ちゃんとそう呼ばないとやめない」
だからつい意地悪をしたくなる。
「ほら、ゆる」
慈しむようにキスをして、お願い、とばかりにその身体を抱き込めば。
「いっ、いのり」
「なに」
「がっこうのひと、ちかくまできてる」
「だから?」
「だっ、からその……」
「うん」
「おねがいだから、もうやめて……っ」
懇願するゆるは、やっぱり可愛い。
日常ではリードを取りたがるようなタイプなのに、こういうとき、ゆるはいつも根負けする。
「わかった」と頷きいつものように歩き出せば、ゆるは少々唖然としながらも、急いで隣を歩いた。
まるで何事もなかったかのような顔をしている俺に、怒っているのかなんなのか。
ゆるは少しだけ、むっとしていた。
思わず笑ってしまいそうな顔を隠すように逸らして、俺は掴んでいたゆるの指を離した。
そして、絡めるように深く手をつなぎ直せば、ゆるはますます顔を赤らめて「ひとの気も知らないで……」という。
その不服そうに突き出た上唇が、まだまだ赤く色づいているので、今一度噛みつきたい衝動に駆られたが抑えることにした。
