そして高校一年生の体育祭、彼女のことが気になっているという先輩が距離を詰めていたところを見て、つい割って入ってしまった。
彼女もまんざらでもなく笑っていたので、腹立たしくて「俺の知らない顔すんなよ」とつい言えば、「えっ」とその顔が固まった。
何にもわかっていなさそうな顔をして、今の言葉を理解したのだろうか。
振り返って目を合わせた俺に、その大きな目をゆらゆらと揺らす。
「あんま遠くに行かないで、俺のそばにいてくんない」
そう言ってしまえば、その頬が赤く染まった。
『あ』と思った。
彼女は理解している。
どういう意味で、俺がその言葉を言ったのか。
だから、その動揺と恥ずかしさで顔が赤くなっているのだろう。
「篠木。あのさ」
攻めるなら今だと、
「俺と付き合うのは、どう」
俺はそこで彼女と篠木ゆると付き合う交渉をした。
ゆるは悩みつつも、了承してくれた。
嫌だと言わせる気はなかった。
ゆるにとって俺と言う存在が〝安心するものであるように〟ずっとずっと、振舞っていたのだから。
