「御手洗い、借りてもいいですか」

貴一がそう言って離れると、店員さんはにこやかに、

「2月にお客様がいらっしゃった時、彼女の誕生日に指輪をプレゼントしたいけれど、金属アレルギーがあって、指のサイズもわからない。先のことを意識して欲しいけれど、プレッシャーは与えたくないって仰っていたので、よく覚えているのですよ。その状況ならきっと、まだ付き合い始めて日が浅いのだろうと見当はつきましたが…ご結婚されたとは、こちらとしても嬉しく思います」

「あ、ありがとうございます…」

付き合い始めて日が浅いどころか、交際0日の結婚なのだが、そこまで打ち明けるのはやめておこう。

それより、貴一がそんなことを思っていたなんて全く知らなかった。

私のことを“彼女”と言ったのは便宜上にしても、先のことを意識して欲しいと思っていたの?

貴一が、これまでグイグイ来ることがなかった理由が「プレッシャーを与えたくない」ということだとしたら、何もかも辻褄が合う。

それでも、やはり本人から愛の告白を聞きたいと思ってしまうなんて、あまりに求めすぎだろうか。