だから、さっきからずっと、早く出掛けるよと急かす貴一を真っ直ぐ見つめて言った。

「ねぇ、貴一は本当にそれでいいの?早く自分のお店持ちたいんでしょう?子供を育てるにはお金もかかるし、勢いで結婚して後悔してほしくないの」

「後悔するわけないだろ」

貴一も私を真っ直ぐ見つめてそう言い切る。

「俺は勢いで結婚するほどバカじゃないよ。何がいちばん大事か、それぐらい判ってるから」

思わずドキッとしてしまった。二つの理由で。

貴一のことを天然だと思ったことはあっても、バカだと思ったことなど一度もないのに、傷つけてしまったのかということに。

そして、何がいちばん大事か、という言葉に。

私は、女の涙は武器などと言うような人は、性別問わず大嫌いだし、そんな女にはなりたくない。

なのに…貴一の前だと、私は素直になりすぎる。

貴一以外の誰かの前では、涙など見せたこともない強がりのくせに。

ごめんね、と、ありがとうの素直な想いから、涙が溢れそうなのを見られまいと、背を向けて

「私、貴一のことバカだと思ったことなんて、一度もないからね?」

「知ってるよ」