あれから数日。
 屋敷を恐怖で支配した私は、自らの姿に疑問を浮かべる。

 どこにでもいる量産型の黒髪ロング。
 服はいかにもザ・田舎と言わんばかりのデザイン。
 地味なメガネは色気のかけらもない。

「何事も見た目から変えないといけまんわね。そのためには……」

 侍女を呼び出し、私はこう命令を下した。

「この街にいる、すべての美容師、デザイナー、それとメガネ職人をここに呼び寄せなさい。今すぐにですよ?」
「レイチェル様、お言葉ですが、それですと民衆の生活に影響が……」
「なるほど、このレイチェルよりも、民衆が大事だと、そう言うのですか。それなら……」

 冷たい言葉を侍女に向けると、彼女は顔が青ざめ震えあがった。完全に怯えきってしまい、私の言葉が続く前に発言を訂正した。

「れ、レイチェル様、私が間違っておりました。即刻、街中から集めますので、少しお待ちください」
「そう、分かったわ。期待、しているわよ? ひとり残らず全員集めるのです。できなければ……分かってますよね?」

 心が闇に堕ちると、こうも無感情となれるのね。それに、あの怯える姿を見ると、クセになりそうですわ。まるで何かが私の中で満たされる、そんな感じよ。

「はっ、はいっ。必ずやご期待に添えるよう頑張ります」
「ええ、よろしく、ね?」


 次に侍女が私の前に姿を現したのは、わずか三十分後という短い時間だった。
 私の指示通り、この街に住む美容師たちをすべて連れてきたのだ。

「思ったより早かったわね。レイチェルはかなり満足よ。これからも、このレイチェルのため、尽力しなさいね?」
「も、もちろんにございます」
「そっ、アナタはもう下がっていいわよ」

 一礼すると、侍女は私の前から姿を消した。
 肩を小刻みに震わせながら……。

「さ、て、とっ。急に集まってもらって感謝してるわ。そう、レイチェル、かんげきぃ〜ってぐらいの感謝よ。ありがたく思いなさいね」
「あ、あの、レイチェル様……。私たちが集められた理由が、まだイマイチなんです。それに、今お客様を待たせておりまして……」

 この男、確か美容師、だったかしら。そう、ナーシャでも指折りの名店でしたね。で、も、この私に意見するなんて身の程知らずですわ。それならば……。

「そうか、このレイチェルはお客とやら以下の存在、そう思っているのね。分かったわ、ハッサム! この不届き者を牢獄へ連れていきなさい」

 ハッサムという男は、この街の治安部隊の隊長。もちろん、私の護衛もしているの。忠実な番犬といったところかしらね。
 屈強な肉体は惚れ惚れするほど美しいの。でも、顔は私のタイプじゃないわね。

「かしこまりました、レイチェル様。さぁ、貴様はこっちに来い。牢獄で自分の愚かさを反省するのだ」
「レイチェル様、私がいったい何をしたと……」
「そんなの、決まってるじゃない。私に口答えした、これだけよ?」

 断末魔を撒き散らしながら、あの男は私の前からいなくなった。二度とあの顔を見ることはないわね。だって、牢獄から出すつもりは、まったくありませんもの。

「では、改めて、このレイチェルに意見のある者はおりますか?」

 ざわつくと思ってましたけど、それすらせず、みなは俯いてばかりね。やはり、あの男を犠牲にしただけはあるわ。

「よろしい、ないようですね。では、アナタたちに重要な任務を与えます。このレイチェルを……この国いちの美女にしなさい。安心して、お代はちゃんと払うわよ。仕事さえしてくれれば、ね?」

 震える姿は私へのご褒美。これぞ悪役令嬢って感じですわ。
 ふふふ、これで私は……身も心も生まれ変わることができるわね。