二日も休みがあると体がなまり、家を出るのが億劫になるものだ。そのため私は普段連休にならないようにシフトを組んでいる。それでも今回のようにたまに連休を挟むと、その後の憂鬱さはかなりなもので、今朝彼が必死に起こしてくれなければ、今こうしてレジの前に立っていはいないだろう。

 「芽依ちゃんって朝苦手なの?」

 店内に誰もいない事を確認してから、「得意ではないね」と小さな声で私が答えると、「昔からよく寝る子だったもんね」と笑われた。

 いつもなら土曜日の朝というのはそれなりに客足が多いのだけど、今日はどういう訳か極端に少なかった。店内から外を眺めると大通りの交差点で傘をさした人たちが信号待ちをしているのが目に入る。きっとこの大雨の影響で店内の静けさは保たれているのだろう。うっすらと流れるBGMと強い雨が地面をうつ音以外は何も聞こえない店内で、私は彼との会話を楽しんでいた。

 店の自動ドアが開くと雨音が店内のBGMをかき消し、一気に静けさが消えた。突然訪れた静けさの崩壊に驚き、挨拶を忘れて入り口を見ると、そこには特別な二人(・・・・・)の姿があった。喉の奥で置き去りにされていた接客業特有の決まり文句を私が慌てて口にすると、後光の彼(・・・・)が頭を軽くさげてきた。今までそんなことをされたことは一度もなかったので多少の驚きはあったけれど、おそらくこの間の一件があったからだろうと一人で納得した。

 「知り合い?」

 あまりに自然な質問に思わず声に出して返事をしそうになる。それをなんとか寸前で止めて、一度咳をしてから首だけ横に振ることで彼に応えてみせた。不思議そうにこちらを見つめる彼が視界の隅にいるけれど、この状況で対応する訳にもいかない。すると相手も状況を察したのかそれ以上は話しかけてこなかった。