夕食の間、彼はずっと私の部屋にいた。部屋を出る前に一人で何をするのかと尋ねると、
「特別なことはしないよ」
と、嫌な笑みを浮かべられた。彼の思惑通りに『特別』という言葉を聞いて私の心臓は音を立てた。特別って何だろうという彼の投げかけた問いが、あの日以来私の心臓に居座り続けている。
「ねぇ、からかってるでしょ」
「どうかな」
近寄ればクククと押し殺した笑い声が聞こえてきそうだなと思う。それくらい、人間の私から見ても今の彼はとても楽しそうに見えた。
階段を下りながら、そんな私も客観視すると楽しそうだということに気づいたけれど、その理由については考えないようにした。

