いつもと変わらない家までの薄暗い帰り道。不変の道のりと私自身、変わっていくのは日付と季節と天気のみ。そうやって、この道を通るのが生活の一部のようになって三年。だけど今日、私自身に変化が訪れた。私の横には木嶋碧斗がいる。彼は今、人間ではないけれど、誰の目にも映らないかもしれないけど、私の横にいる。一人で歩くことに慣れてしまっていたこの帰り道に、一人ではない私がいるという現実。夜風によって葉を揺らす木々たちの音は、そんな私の姿に驚きを隠せずざわついていた。

 「芽依ちゃん、いつもこんな暗い道通って帰ってるの?」

 くるくると体を回転させながら彼は悪いものを探すかのように隅々まで目を通した。少し眉を顰めたその表情は昔を思い出させるもので、まだ好奇心旺盛だった頃の私が無茶をする度に、「危ないから駄目だよ」と叱ってきていた時の表情とよく似ていた。彼の問いに私が首を縦に動かすと、今度は驚いた様子で「怖くないの?」と聞いてきた。

 「全然怖くないよ。まぁ最初は確かにちょっと怖かったけど、でももう慣れちゃった。大通りからでも帰れるんだけど、遠回りになるからさ。この道の方が楽なの」
 
 私の言葉に彼は小さく笑って、

 「昔はあんなに怖がりだったのに大人になったね」

 と言いながら犬を愛でるように私の頭を撫でた。正確には、撫でる仕草(・・)をした。それを見て、やっぱり彼はもうこの世にいないんだと思い知らされる。私たちはもう物理的に触れ合うことは不可能だと、そう再確認させられた。

 「ねぇ、明日からは大通りから帰りなよ」

 そう言った彼が突然立ち止まったので私も足を止める。すると彼は私の身体を頭の先から足の指先までじっくりと見て、声には出さずにうんと頷いた。怪訝そうな表情を作った私を見るなり、今度はさっきよりスピードをあげて彼は再び歩き出した。置いていかれないように慌てて後を追いながら理由を尋ねると、

 「普通に考えて危ないでしょ」

 答えた直後に彼はまた立ち止まった。勢い余って追い越してしまった私が振り返ってその表情を見ると、どういう訳か彼はまた眉を顰めている。何か言わなくてはと思い、必死に言葉を探したけれど今の状況に見合ったものは出てこない。パッと出てくる言葉といえば、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」などの接客用語だった。二人で過ごしていた時はもっと自然に会話ができていたはずなのに、今の私にはそれすらもできないようだ。いつの間にそんな人間になってしまったのだろう。

 「若い女の子が夜遅くにこんな暗い道一人で歩いて、何かあったらどうするの?危ないよ。今までたまたま何も起こらなかっただけ」

 私の勝手な憶測ではあるけど、彼はきっと少し怒っているのだと思う。顰めた眉の間に表れた眉間の皺がそれを物語っていた。

 「芽依ちゃんは女の子なんだから、その辺の自覚をちゃんと持つこと」

 皺を取り除いた彼の言葉に棘はなく、生前と同じように優しい口調だった。