廊下に出るなり、すぐに琴音があたしの方を向く。


 「野菊ちゃん! 錦丘くんとどんな関係なの!?」


 きらきらとした目で、あたしを見る、琴音ちゃん。


 またか。


 このことを聞かれたのは、琴音が初めてではない。正直、いろんな人に聞かれている。いつも、言い争いばかりしているから、みんな、気になるのだろう。


 「ただの幼馴染だよ」


 そう、あたしと彼はただの幼馴染。幼稚園のころから、家族ぐるみで仲がよく、かかわりがあるというだけなのだ。


 それ以上でも、それ以下でもない。ただ、そんな関係。


 「ええ、嘘。ぜったい、両想いじゃん」


 「はあ? んなわけないって」

 まさか。あたしは、彼に恋愛感情はすこしも抱いていないし、あっちだって持ってるわけがない。


 「ええ、でもだって、錦丘くんがまともな会話するのって、野菊ちゃんだけだよ? ほかの人に対しては、いつもそっけないし」


 「いやいや、でも、あたしだって、いつも憎まれ口たたかれるだけだよ。あいつのこの反応が「好き」に見える?」


 「見える。ほら、「好きな子には、ちょっかいを出したくなるっていうじゃん?」


 「まさか」


 「いやいや。じゃあさ、逆に野菊ちゃんはどうなの?」

 
 「ないね!」


 即答する。あたしは、もっと紳士的な人がいい。


 まあ、とはいえ、今のあたしには恋愛する余裕なんてないのだが。