私に気づいたのか、彼は乱れた髪をかきあげてこちらを向いたとき、私の心臓がドクンと大きな音を立てた。


 初めて彼の顔をまともに見た気がする。
 なんて……危険で、美しい。

 思わず息を呑む。
 目の前にいる妖艶な男は誰──?


「くっそがあ!」

 そのとき、倒れていたはずの男が突然起き上がる。
 その声にハッとした私は、気づけばその場から離れていた。


「はあっ……はあっ」

 なに、いまの。
 なに、あの姿は。

 本当に町空くんなの……?


 そんなの聞いてない。
 喧嘩が強いなんて。

 それよりも……あんなにも綺麗だなんて。


 怖いはずなのに。
 どうしてこんなにも高揚しているの?

 くっきりとした二重で切長の目は、どこか鋭く私を見ていた。


 あんな目をしていたんだ……あんな、野生的な。


 この胸の高鳴りを、熱を帯びる頬を隠すように、私は駅までひたすら走り続けた。