二十五歳の夏、僕はまだ美波が好きだった。勇気をだして、久しぶりに美波へLINEを送った。

『もう一度会って、話がしたい』

 別れてからもずっと、彼女のことが忘れられなかった。
 もう一度、やり直したい。

 スマホの音が鳴る。
 すぐにLINEを開いた。

『もう、会うとか、無理なんだ。ごめん。
 これだけは約束して欲しいです。次に陸斗が誰かを愛した時、私みたいに慣れないで、相手の愛にちゃんと向き合って。そして、私みたいにわがままで我慢ばっかりして溜めこんでる。そんな人と恋に落ちないでください。最後のわがままに指切りをお願いします。

 ありがとう。
 さよなら。
 ばいばい。』

 返事が来た。
 心が痛い内容。

 あの頃は気が付かなかったんだ。
 いや、気がついていたけれど、気が付かない振りをしていた。

 美波が我慢していた事に。
 
 後悔している。
 後悔しかしていない。

 すぐにLINEを返した。

『真剣に向き合えなくてごめん。美波が僕にしてくれた沢山の優しさに気がつけなくてごめん。美波をもっと大切にすれば良かった。もう後悔しかしていない。これだけは約束してなんてそんな話は聞きたくない。次の愛なんて知りたくないから。美波との約束をこの胸に秘めたまま何年だって美波が好きなままでその約束を果たす相手はまた同じ人でも美波でも別にいいでしょう? 最後のわがままなんて言わないで。これからもわがまま言って? 慣れないし美波の愛にちゃんと向き合うし。てか美波はわがままじゃない。我慢させない溜めこませないから。だからお願いもう一度だけでいいから会って話がしたいんだ。もう一度だけ、チャンスを下さい。本当にごめん』

 紙に殴り書きをするような速さでLINEの文章を打った。すぐに送信ボタンを押した。

 こんなに長い文章で、こんなに早い返信をしたのは初めて。どん引きされそうだけど、思いの全てを伝えたかった。

 けれど、この文章は既読になる事はなかった。
 読んでもらえる事はなかった。

 向かい合おうとする気持ちが遅すぎた。 
 伝えるのが遅すぎた。
 何もかもが、遅すぎた。

 今の彼女との繋がりは、このミサンガだけ。

 腕にずっとつけている、彼女とお揃いのピンクのミサンガを見つめた。でもきっと彼女はもう、つけていないだろう。


 僕の頭の中は、日が経つにつれて美波への想いが溢れてくる。
 涙で滲む、目の前の景色が。