「みのり、起きて。朝だよ」

 朝六時。スマホのアラームで目が覚めると、腕のなかの恋人はまだ眠っていた。
 いつもならそのまま寝かせておいてあげたいところだけど、今日ばかりはそういうわけにもいかない。

「起きて。そろそろ準備しないと。……みのり?」

 何度か肩を揺らしたり、頬に触れたりして起こそうとするけれど、まるで反応がない。
 彼女が一度寝たらそう簡単に目覚めないタイプであるのは、俺の部屋に泊まるようになって初めてわかったことだった。確かに「朝は苦手」と話していたけど、まさかここまでとは。

「起きないとキスするよ」

 言いながら、むしろ起きないでほしいと思う。彼女を起こすためとはいえ、キスする理由がなくなるのは寂しい。
 思惑通り、彼女からのリアクションはなかった。ならば、有言実行するのみだ。
 俺はみのりの身体を抱き寄せ、唇を重ねた。

「ん……」

 ちゅっ、ちゅっ……と微かな音を立てて、彼女の唇を啄むうちに、掠れた甘い声がこぼれてくる。

「……修哉、さん……?」
「おはよう。起きる時間だよ」
「ん……ありがとう」

 まだぼーっとしているのか、みのりはどこか焦点の合わない目をぱちぱちと瞬かせている。

「先にシャワー浴びてきて」
「……うん、そうする」

 シャワーを浴びれば眠気も吹き飛ぶ。
 むくりと起き上がった彼女が着ているのは、部屋着代わりに貸した俺のTシャツ。
 細身でやや小柄な彼女が着ると短めのワンピースみたいな丈感だ。
 俺の部屋で過ごすことも増えたので「部屋着を持ってきて」と言っているのだけど、みのりは俺のTシャツを着たがる。
 どうしてなのか訊いてみると、「修哉さんの匂いがするから」と。
 無邪気な答えを聞いてうれしくなってしまう俺は単純なのだろう。