私たち五人は、ちょっと特殊なお仕事をしている。
 戦隊ヒーローのスーツアクター。アクション俳優といった方がわかりやすいのかもしれない。
 私――榎原みのりは某商業劇団に所属する新人女優だ。
 幼いころから舞台上のキラキラした世界に憧れを抱き、高校卒業を機に上京。
 憧れだった第一志望の劇団の研修生の公募に運良く合格し、レッスンやアルバイトに精を出しつつ、年に数回ある劇団の公演の手伝いをしているうちに、少しずつ役をもらえるようになっていった。
 
 『星河戦隊ファイブスター』のメインキャストのオーディションを受けたのは、今から一年前。二十四歳の秋だった。
 私の所属する劇団には様々な媒体の様々なオーディション情報が日々舞い込んでくる。
 けれど、そのほとんどが劇場公演で、テレビ番組の――それも地上波キー局ものはとても珍しい。
 同番組枠の戦隊ヒーロー番組は一年ごとにタイトルを新しくしつつも何十年も続いており、その人気は当初のターゲットであるキッズ層だけに留まらず、自分の幼少期を懐かしむパパたち、美形の男子の虜になるママたちにも及んでいる。
 注目度の高いお仕事だけに、業界では若手俳優の登竜門として有名だ。もし合格すれば、自分の知名度は一気に上がるだろう。

 すぐに応募し、気合を入れてオーディションに臨んだ。結果、私は見事に合格を勝ち取った。
 電話で合格の報せを受けた瞬間、泣いてよろこんだ。上京して六年。芸事とアルバイトとの両立はキツかったし、毎月の家賃や食費の心配をしたのも一度や二度では済まなかった。もしかしたら楽しいことよりもつらいことのほうが多かったかもしれない。
 でもこれでその苦労も報われて、華々しい道が開ける――はずだった。
 電話口のスタッフさんから、次の言葉を聞くまでは。

『榎原さんには、ぜひスターリーピンクのスーツアクターをお願いしたいと思ってまして……』

 時が止まった。何を言われているのかよくわからなかった。
 私が受けたのは、『桃園メイ』という女性の役だったはずだ。設定資料では、確かに桃園メイはスターリーピンクに変身すると書いてあったけれど――
 話を聞いているうちにようやく、制作側は私を変身前の桃園メイとしてではなく、変身後のヒーロースーツを着たスターリーピンクとして使いたいと思っているらしいことがわかった。